第18話 魔法学者の処刑

途中の宿で一晩ひとばん泊まり、翌日には王都に入った。

魔法学園に着く前にお昼時になり、ローズは二人分の昼食を買いに、広場で馬車を降りた。

アレグリアが馬車の中から街を見ていると、人々は広場に続々と集まってくるようだった。


「街がさわがしいわね」

 戻ってきたローズに、アレグリアは声をかけた。


「どうやら、今日は魔法学者の処刑しょけいが行われるそうですよ」

 ローズは街で買ってきた新聞を広げながら言う。


「あら、随分ずいぶん物騒ぶっそうね」


「国王陛下が直々じきじきに、貴族の子供がまれに魔力なしで生まれてくる理由の解明を命じたそうです。ところが、学者たちの出した結論は、とても陛下が納得なさるようなものではなかったらしく…」


ラルカンスの貴族は魔力の強さを重視じゅうしし、魔力の多い相手との婚姻こんいんを求める傾向にある。

時には、身分が低くても魔力が強い人間と結婚することもある。

そうまでして魔力を保持ほじしようとしているのに、魔力を持たない者が、稀に貴族の家系に生まれてしまうことがあるのだ。


「この国の貴族にとっては大きな問題ですもの、国王陛下が調査を命じられるのも納得なっとくだわ。それでも、処刑するのは流石さすがに行き過ぎているのではなくて?学者の方々は、一体どんな結論を出したのかしら」


「異世界転生です」


「なんですって?」


「魔力を持たない貴族の子供は、この世のものとは思えない不思議ふしぎな記憶を持っていることが多い。別の世界から生まれ変わってきた者たちなのではないか、という結論だったとか」


「つまり、ローズの他にも、違う世界で生きた記憶を持って生まれてくる者――転生者がいるということ?」


「そうみたいですね」


「なるほど…。そして、転生者たちには魔力がないという共通点があるということね?魔力のない世界から来たたましいは、こちらの世界で生を受けても魔力を持たない、というのはありえないことではなさそうね。処刑する必要はないように思えるわ」


「魂が他の世界からやって来るということ自体、受け入れがたいんだと思いますよ。ラルカンスの国教では、たましい精霊せいれいのもとで生を受け、死んだら再び精霊のもとへかえり、自然と一体になると考えられています。別の世界からやってきた魂がいる、などとは認められないでしょう」


「その点はネーレンディアの国教と同じね」


「はい。お嬢様のように、転生をあっさり受け入れてしまう方が、むしろ珍しいのだと思いますよ」


「あら、頼れるお姉さんだと思っていたローズが泣きじゃくりながら、前世や原作の話をしていたんですもの。作り話には到底思えなかったわ」


「あの時は、その、お嬢様が旦那様の秘密の部屋にいらっしゃったことに動揺して…。お嬢様を破滅はめつさせないためには、魔法に触れさせないのがいいと思っていたのに、失敗したと思って、思わず涙が…。おまけに、あの時は完全にオタクの早口でしたよねぇ。本当に恥ずかしいです…」


赤面するローズを見て、可愛らしいわね、とアレグリアは思うが、口には出さない。

アレグリアを姉のように支えてくれるローズの体面を、守ってあげなくてはいけないからだ。

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