第9話 幕間 原作が生まれる世界の物語2

侍女じじょの名前がローズっていうのは、ちょっと大げさに聞こえるよねぇ」 


「はぁ、そうでしょうか」


「そうだよぉ。お嬢様っぽいじゃない。ローズだよぉ、ローズゥ」

 したり顔の部長ぶちょうは、まん丸い顔にかけたビン底眼鏡めがねをずり上げる。


小説クラブは、毎週決まった時間にコンピュータールームに集まるのがルールだ。

だがそれ以外は、おしゃべりしたり小説を書いたりと思い思いに過ごす、ゆるい部活だ。

ただし、文化祭ぶんかさいや新入生の部活動体験会では、成果物の展示が求められる。

今は文化祭が終わり、春の新入生の部活動体験会に向けて準備じゅんびを進めなくてはいけない時期だ。

だからこうして時折ときおり、部長が作業の確認にやってくる。


「ローズっていうのは薔薇ばらだよねぇ。薔薇は花の女王様みたいなものでしょお。侍女が薔薇っていうのはねぇ、ちょっとねぇ」


「まぁまぁ、いいじゃありませんか部長。名前に貴賤きせんはありませんよ」

 にこやかに間に入ったのは副部長だ。


副部長も眼鏡をかけているが、よりスマートでさっぱりした印象で、人当たりもよい。

副部長こそ部長になればよかったのに、というのが、他の部員二人の総意そういだ。

しかし、副部長はあくまで部長を支える立場に徹している。


「部長は小太郎こたろうというお名前なのを気にしておられますが、部長として立派りっぱにお務めではありませんか」


「僕は立派かい、副部長くん?そうだろうねぇ。そうだろうとも。小太郎という名前の僕が立派な部長なんだから、ローズという名前の侍女がいてもいいかもしれないねぇ」


「おっしゃる通りですね、部長」


 たきなを置き去りにして会話し始めた部長たちにあきれていると、隣で執筆しっぴつしていた高島たかしまさくらが、たきなに耳打ちする。


「わたし、部長はあんまり好きじゃないけど、あの二人組は好きなんだよね」


 たしかに、とたきなは思う。部長はクセが強すぎるけど、副部長と一緒にいると面白いかも。


「さぁ、次は君の番だよぉ、桜くん」

 にこやかに迫ってくる部長と副部長を見て、先ほどの余裕よゆうはどこへやら、桜は顔を引きつらせる。

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