第18話 書き足される絵
『未完』
そんなタイトルの絵が美術室の一角に飾られている。
ソレは赤を基調に、様々な色を塗りたくった様な――今でいう現代アート的な絵だった。
選択授業で美術を取っている生徒は少ない。僕はその数少ない一人だ。
その絵の逸話を聞いたのは、授業の一コマでの出来事だった。
美術教師が言うには、
「この絵は今から二十年前に一人の生徒が卒業制作として描いたものだ。独創的なタッチに抽象的な構図、そして色を漬けるのに自然のモノを利用したらしい。当時は中々理解されなかったようだ。その上、その生徒が言うにはこの絵は未完成とのことだ。年月が経つにつれて絵は完成に近づいていく」
そう言って、卒業していったらい。
経年劣化で味か出るということだろうか?
それとも後継者のような者がいたのだろうか?
真相は分からない。
だが、確かなことが一つあった。
ソレはこの絵が確かに毎年少しずつ変化しているという事だ。
青が、緑が、赤が――年々色が足されていく。
僕が初めてその絵を診てから一年。
絵に赤みが増していた。
より鮮烈に、過激に、美しく。
その絵は見る者を引き付けるた。
次第に美術室に足が向く事が多くなった。
昼休みや放課後。朝の早い時間、授業の間の短い休み時間でさえ、時間が開けばその絵を見ていた。
何てキレイなんだ。
でも、分かる。答えは『未完』何だ。
何処が、何が、どうして足りないかも絵を見続けることで理解していた。
浮かされたように、絵を見つめる僕を教師は感心し、友達は笑い、不気味に感じていた。
どうして彼らは分からないのだろう。
僕らがこの大作を完成させるための歯車だということに。
パレットナイフを手に取る。
継ぎ足す色は――赤。
黒く、鮮明な、流れ落ちる――赤。
「あぁぁ……」
歓喜の、快感の、感動のため息が漏れる。
パレットナイフから滴る赤が絵を完成に近づけていく。
ポタ ポタ ポタ
パレットナイフを当てた手首から滴り落ちる――鮮血。
今まで幾人もの、幾匹もの血で塗り重ねられた絵がまた一本完成に近づいた。
『未完』を『完成』させるため、翌年――幾年と誰かが血を捧げ続けるのだ。
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