第16話 黒電話

「職員玄関のところにトロフィーとかが飾られてるガラスケースあるじゃん。あそこの隅っこに黒電話があるの知ってた?」


 放課後暇を持て余した二人が教室で雑談していた。

 名前だけ入れてもらった家庭科部には一度も顔を出したことがない。


「なになに? 怪談? 最近流行ってんよね」

「まぁね。で、どう? 知ってる?」

「んー、どうだったかな。あんまり覚えてないわ」



「知らんのかい! 結構場違い感強いから知ってるかと思ったのに」

「いや、そもそも職人玄関そんなところ通らないし」

「まぁ、それはそうか」

「で、その黒電話がどうしたって?」


「いや、見た感じ結構古めで所々塗装が剥げてて、電話線も途中で切れてるんだけどさ」

「そりゃ、そんなトコに置いてあるんだからね。電話線繋がってたら逆にビックリだわ」

「でも昔は使われてたんだって」

「……それこそ都市伝説じゃないの?」

「イヤイヤ。実際私達のおばあちゃん世代とかは普通に使ってたから」 

「うっそだー」

「嘘じゃありませんー。職員玄関の黒電話も昔は別の学校で実際使われてたものらしいし」

「何で別の学校にあった電話が、うちの学校でトロフィーと一緒に飾られてんの?」

「ソレは分からないけどさ……」

「なんじゃそら」

「まぁまぁ。そんなのはどうでもいいから。大事なのはココから。何でもその黒電話には逸話があるらしいんだよ」



 その黒電話は小学校にあった。

 今とは違いスマホや携帯電話がない時代。

 公衆電話さえ何処にでもあるわけではなかった。

 その為職員玄関の所に黒電話が置かれていた。隣接する職員室に声を掛けると生徒でも使用する事が出来たらしい。

 その為、かける専門の電話であった。


 しかし、ある日の放課後。

 部活動で帰宅が遅くなった生徒が、家に電話して迎えに来てもらおうと、顧問に許可を貰い黒電話のところまで行った。

 

 すると、近づくにつれて音が聞こえた。

 初めは何の音か分からなかった。聞き覚えはあるが、この場所でその音を聞くことがなかったため、一致しなかったのだ。

 音の発生源は黒電話だった。

 ジリリリリリッ

 けたたましい音が、校舎の静寂を貫くように鳴り響いていた。

 その生徒は不思議に思い辺りを見渡したが、自分以外他に誰もいなかった。

 仕方なく、電話が鳴り止むまで待つ事にした。鳴り止まないことには電話が掛けられない。


 十秒、三十秒、一分……


 いくら待っても電話は鳴り止まなかった。

 仕方なく、その生徒は電話に出る事にした。

 ゆっくりと受話器を手に取り、耳に当てる。


「もしもし――――」


 次の日。

 耳から血を流して死んでいる生徒が発見された。

 

 その後紆余曲折経て、黒電話は松江西南高校へ。 

 そして、今でも時折電話の音が鳴り響いているという。


「て、話みたい」

「よくある都市伝説だね」

「まぁね」

「で、何でその黒電話の話したの?」

「んー? 暇だしホントに鳴るのか見に行かないかなっと思って」

「いや、前置き長いよ」

「あははは」


 二人はこの後黒電話を見に行った。

 ガラス越しに見るしかなかったが、話の通り電話線は途中で切れており、受話器も外れていた。これでは電話がかかってくることはなさそうだ。

「もしこれで電話が鳴ったら、普通にチビるわ」

「私も、多分腰が抜ける」

「……帰るか」

「そだね」


 二人が立ち去ったあと、ガラス扉を開け受話器を元に戻す影があった。

 ガチャンと受話器が置かれた途端――


 ジリリリリリ


 現代では聞き慣れない、けたたましい音が人気のない校舎に響き渡った。


 影はそっと受話器をとり、耳に当てた。

 何事か話すが思い通りの回答が得られなかったようで、その眉間にシワを寄せて再び受話器を置いた。




 その後、新たな怪談が話し出されるようになった。

 時折、受話器が乗せられた黒電話から音がなる。しかし、その電話には出てはいけない。もしその電話には出てしまったら、ソレはあの世からの電話。あの世に連れて行かれてしまう。



 





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