第二十話:それでも

「お前、あの時は俺たちの方が強いって言ったわりになんだよこの有様…」

 アレン・スパルタス。グルカ兵最強の生き残りは斬られた脚が地に伏し、無数の切り傷に見舞われた身体で戦意喪失をしていた。息継ぎが過激に衰退し、瞳も生気を失いつつある。

「俺たちよりお前の方が強いじゃねぇか、やっぱり…」

 前にいるロードは虫の息であるアレンにトドメを刺さない。それはかつて仲間への躊躇いではなく、自身の高性能音感エコロケーション探知機能サーチレーダーで彼の心拍音を測り、生存確認の実行中ローディングで、確認が終われば、すぐに胸を突き刺すつもりだった。

 しかし、高性能音感エコロケーション探知機能サーチレーダーが察知したのは死の収束の無音でも、生存継続の脈音でもなく、拳銃の弾が装填された仕掛け音だった。

「殺す! 殺してやる! この悪魔が! 母さんが死んだのも、俺たち兄弟が苦しいのも、全部、お前のような兵器が悪いんだ!」

 ロードが振り向けば、照準を定めているニオが憎しみの剣幕で自身を睨みつけていた。彼が引き金を引こうとした瞬間、

「逃げやがれ、ガキが! こいつを殺さなきゃいけないのは俺だ!」

 アレンの激昂に怯んでしまい、尻餅をつきつつも、そのまま起き上がり、その場からリッテを抱え、一目散に逃げる。

 そして、アレンはまだ生きている両腕の腕力でロードの胸元まで登り掴み、捕らえる。

「捕まえたぜ…なに…一人にはさせないぜ…あの世まで…機械の魂でも…行けるようにするからよ…」

 アレンの胴体にはC4爆弾が巻き付いていた。自爆という最終手段を確実なものにする為に。

「本当は…こんな手は…使い…たく…なかったんだよ…隊長…が…怒るからよ…」

 ニオに対しての叫びを最後にアレンの声は呂律が回らず、途切れ途切れに頭脳から言葉を振り絞る。

「それ…でもよ…本…気の…てめぇに…勝て…る…には…これしかねぇからよ…へへ…」

 アレンが左ポケットにある起爆装置を作動した瞬間、彼に巻き付いた爆弾だけでなく、路地裏四方周囲の建物まで爆破され、その瓦礫の雨がロードに覆い閉じ込め、降り掛かった。

 戦場と化したその凄惨な地に四人の兵士が足を踏み入れる。褐色肌以外髪型や目・耳・顔の形が違うその男たちはアレンと共に生き残ったグルカ兵の末裔たちで、アラウスの第一部隊に入った中でも、アレンと共に少数精鋭で単独行動で波いる敵兵を殲滅していた。

 そんな彼らは戦友であり、生き残ってしまったグルカ兵たちの誰よりも強いリーダーであるアレンの名誉という名の殉死に対し、涙を堪えながらも身が悲哀に震えていた。

「アレン兵長…くっ…くそぉ!」

「あの人の指令だとは言え、俺たちが路地裏や建物内のあちこちにあらかじめ設置させたC4を一斉爆破させ、埋めてしまうなんて…」

「そうまでしないと…兵長が死に追い込まれないと、あの鉄屑野郎を倒せないなんて。」

「俺たちのやるべきことはもう終わ」

 その刹那、一人の兵士の隙が爆発跡の砂埃と煙が支配する上空から飛び出した凶刃に命を首ごと刈り取られた。

「んだ?」

「な」

「あ」

「ひ!?」

 残り三人も胴を裂かれ、頭をかち割られ、心臓を貫かれた。そこに立っていたのは返り血を浴びた無傷の機械兵だけだった。

「まさか、自滅に見せかけ、あちこちに爆弾を仕掛けられるとはな。両腕を同時に斬り、脱出することを考えない浅はかさと自己犠牲で成そうとする意味不明さ、そして、兵器わたし一つに対する爆弾と人員の大量消費という無駄…」

 そのノイズが混じる声、白から黒へと転じた身体ボディ、明るい白から暗い赤へと変えたレンズ。そこにはかつて人の心を理解し、苦悩する優しき仲間の面影は存在しない。

「やはり、人間は理解できない。」

 存在するのは無駄を廃し、慈悲を捨て、弱さを否定された機械兵本来の姿であった。

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