補完の幕間①アレンという戦士:後編

「総員、起立! 敬礼! 本官の名はアラウス・タケヤマと申す! 我らが誇り高き宿であるグルカ兵と決着をつけることを光栄に思う! これより、この一戦を有意義な闘争にする!」

 自分たちの誤ちで殺した無実の兵士はずの俺たちは唖然した。その同胞から敵意どころか敬意を持たれることに心底驚愕した。

「何故、我らを敬う!? 我ら…俺たちは敵だぞ!? お前たちの同胞は無実なのに殺してしまった! 恨まれる覚悟はしていた! だから、その礼義を受け取る資格なんてない筈だ! なのに、何故…!?」

 俺の悲痛な罪悪感を見たアラウスという男は笑顔で宥める。

「軍人として敵国を殺すことも利用されることも今の世の常だ。なら、その振り回された奴を許すのも、この糞ったれな戦争だからだよ。自分が尊敬できる敵くらい敬う心がなくちゃ、。」

 俺は奴の言う甘言を理解できなかった。奴が我ら一族を受け入れる優しさがあるということだけだけが耐えられなかった。言おう、自分たちに付けられた爆弾のことを。せめて、気の良すぎる奴らだけは死なせないように。

「待ってくれ、今の俺たちには爆弾を抱え…」

 その時、首に付けられたチョークが解除音と共にひとりでに外れた。俺はさらなる衝撃に駆られるが、奴は思い当たる節があるように笑みを溢し、無線機トランシーバーを取り出し、心当たりの人物に声を届ける。

、よく捕らえたな。お前が悪の親玉の手綱を握っているな?」

「ああ、隊長。奴さん、何も分からず、憤慨しているが、内心は臆病チキン野郎で、ビクビクと冷や汗が大放出しているっスねぇ。あと、もう電話しなくてもいいっスよ。今、隊長の所へ向かって、奴さんの酷い面を拝ませるから。」

 その時、俺たちグルカ兵が背後を取られる形で、ヘルメという男が率いる別働隊が俺たちの雇い主であったはずの中亜連合帝国の上官たちを奴隷のように引き回す。

「何故、グルカ兵共を助ける!? いや、それより我らが逃げる場所やグルカ兵共に付けた爆弾の情報も分かるんだ!?」

「まぁ、小虫ぐらいナノサイズ諜報員ドローンが偶然、通りかかったんじゃねぇか。それよりも、俺たちの宿敵に何か言い残すことはないのか?」

 上官たちはユーロ統一帝国の兵たちを睨みつけるが、追い詰められた事実は変わらないと悟り、今度は現時点までこき使った俺たちに下卑た目を向け、まだ偉そうに命令した。

「貴様ら、何をやっている! さっさとこの南蛮共を殺せ! 誇り高きグルカ兵なら、儂だけでも助けろ! 今までの恩を忘れたのか!」

 あまりにも無様な姿を見て、笑いたいどころか、俺は偽りの恩を本当の怨で返すことに決めた。そうイカれるぐらい、完全にキレた。

 だから、上官一人の顎を蹴り壊し、腕や脚を切り落とした。

ぶるじてぐれゆるしてくれ…! ばるぎばばばっばんばわるぎはなかったんだ! びばびぼばびばばいたいのはいやだ! ばんべぼなんでもばんべぼなんでもびばぶばばしますから!」

 瞼も目くじらも頬も顔中何もかも腫れ上がり、鼻水や涙や涎で汚した表情を浮かべた上官は失禁のアンモニア臭を漂わせながら、懇願したが、俺たちはさらに気味悪がり、集団制裁リンチで銃身や蹴り足で袋叩きにした。

 許せるはずがねぇ。今まで、俺たちグルカ兵をいいように騙して、こき使うどころか、無実の兵士と一族の命を無駄死にさせた奴の言いなりになるのは腹立たしく、てめぇらの憎悪と嫌悪が頭から離れず、気分を悪くする一方だ。

 そう、思ったら。アラウスという男は俺たちを静止し、こう言った。

「これ以上やったら、こっちが汚れる。こういう奴らは頭に銃弾ぶち込んで、糞尿まみれの便器の穴にに詰め込む方が心が晴れる。」

 それを聞いた瞬間、俺はいつの間にか笑っていた。自分たちよりえげつないことを考える彼に拍子と度肝を抜かれるうちに生への感情を取り戻した。

 その後は単純だった。残りの糞豚共を本当に便器の穴に詰めた後、俺たちは捕虜となり、彼の手際良い説得でそっちの上司を籠絡し、ユーロ統一帝国の第一部隊に所属した。

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