第十九話:戦闘民族対人工兵士

 空を多い尽くすほどの人工兵士たちは次々と人間の兵士に襲い掛かる。赤い眼となったロードは人工兵士の一団を率いて、貧民街スラムにもその魔の手を広げる。アラウスはそれを見逃さず、彼を追おうとするが、ヘルメに阻まれる。

「隊長、もう奴は俺たちの知っているロードじゃねぇ! 十中八九、あのイカれ糞爺に記憶を消されてる!」

「だからこそ…俺たちがあいつを止めなきゃならねぇ! たとえ、あいつが俺たちの手で…!」

 アラウスは必死な形相に哀しみを帯び、その眼でヘルメという信じられる副隊長あいぼうの心を訴える。

 対して、ヘルメはその想いに応えるかのように溜息を大きく吐き、頭を掻いたかと思えば、真剣な表情で第一部隊の兵員メンバーを見回して、声を上げる。

「いいか、テメェら! 今から、俺たちはアイツと戦う! しかし、俺たちの隊長を裏切った鉄屑野郎として処刑するんじゃねぇ! アイツを俺たちの隊長の親友であるロードとして死なせる! それだけだ! 分かったら、さっさと聖戦クソゲンカの準備をしろ! 野郎ども!」

「おおぉーーーーーーーー!!」

 兵士の戦歌ウォークライが鳴り響く。それはかつての戦友と戦う覚悟か哀しき鉄の戦士への手向けか。この世界、この時代によるの大戦が行われた。

「アレンたちは先に行ったか?」

「そうだろうよ。なんせ、無慈悲な殺戮者と化したアイツと闘えるのは、旧日本領に伝わる古の武士か、地球最後のであるアレンしかいねぇよ。」


 貧民街スラムは今、地獄と化した。多くの人工兵士が路地に押し寄せ、人々を廃棄するかのように殺し廻る。悲痛な叫び、怨嗟の怒号が聞こえる中、まだ赤子である弟のリッテを抱え、駆け逃げるニオの姿があった。

 後ろには三体の人工兵士が猛禽の如く空を舞い、猛獣の如く彼らを追い掛ける。

「何で…何でなんだよ! 俺たちが何をしたのかよ!」

 三体のうち一体の人工兵士がロードと同じ性能を持つ超周波振動電磁刃サイバーエッジをニオの頬を擦りさせ、その動揺で彼は転び落ちながらも、リッテを地面に触れないよう背中向きで倒れる。それでも、まだ赤子であるリッテは泣きじゃくるだけだ。

 ニオはそんな弟の顔だけでなく、無貌の人工兵士が意志なき殺意を向けていることに気付き、恐怖した。

「ちきしょう! この悪魔が! この外道が!」

 ニオはその場にある砂埃や小石、ゴミを人工兵士に撒き散らすが、効果はない。事態も変わらない。

 人工兵士はニオの怯えた姿に注視せずに事務的に超周波振動電磁刃サイバーエッジを振り翳そうとした瞬間、頭が飛んだ。

 ニオの悲痛な表情くびではなく、人工兵士の無貌くびが獲られた。赤髪褐色肌の戦士、アレンに。他二体も既に胴体を両断されていた。

 アレンは不敵な笑いを浮かべながらも、背後に現れた新たな人工兵士五体が襲い掛かろうとした時、振り向きざまに両手に持つ超周波振動電磁小太刀サイバーダガーの二刀で構えを取り、最初に前へ来た一体の首を刎ね、それを囮としたニ体の連携の頭をかち割り、後から遅れたもう二体の胴を切り離す。

 その姿は銃に依存する現代軍人にはない非常識な異様さとかつての一騎当千の古代戦国戦士の勇猛果敢な畏怖を感じさせる。

 そして、アレンの目の前に敵の親玉のように君臨したロードが上空を陣取り、眺める。それを見た彼は不敵な笑いをさらに歪ませる。

「…」

「いいぜ、後悔させてやる! 隊長を裏切ったこと、そして、世界最強の戦闘民族グルカ戦争ケンカを売ったことをな!」

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