第十話:ひと時の平和

 一つの戦争後、ZU―1番地の兵士たちは【白林の要塞】を占領し、勝鬨を上げた。その功績の一任となったロードは…

「アラウス、すまなかった。私の討ち漏らしたせいで、部隊を危険にさらせてしまって。」

「分かった、分かったから。抱き着くのはやめろ。お前…男だっけか?」

 恋人のように抱き着き、子猫のように頭をすりすりとぶつけ、アラウスを困らせた。まるで、子供のように甘える姿を周りの仲間たちはニマニマと笑みを溢し、揶揄う。

「おいおい、隊長だけでなく、俺たちにも謝れよ、鉄人。」

「しかし、良かったスねぇ隊長。恋人みたいな奴が出来て、これを機にゲイでも目覚めたら、どうっスか?」

「てめぇら、揶揄うなよ。ロードに変な仕草を教えたのは誰だ?」

「ん? ヘルメ副隊長がこうするべきだと教えられたが?」

「ちょっ、チクるんじゃねぇよ。ロード。」

 ヘルメ・マークリーは焦りながらも、笑いをやめない。

「たくっ、相変わらずきめぇ奴だ。」

 赤髪と褐色肌の兵士であるアレン・スパルスはロードの存在をまだ認めきれず、彼を睨みながら、鼻で笑う。

 彼はグルカの兵士の生まれにして、中亜統一帝国からの捕虜。周囲から差別的に見られがちだったが、肌の色で差別しないアラウスと出会って、第一部隊という大切な家族と出会えた。故に、ロードという元心の無い機械兵士は心許してないらしい。

「まぁ、そうかっかするなよ。隊長。この大豆製コンビーフ缶詰食べてみなよ。カレー味だぜぇ。」

 金髪のショートヘアーと小太りな体型を持つ兵士はディオメ・アンブロッサはアラウスに食べかけの缶詰を勧める。彼は食い物で困らないために軍隊に入るほどの大食漢だが、その反面に運動能力が皆無で、周囲から笑い者にされていた。しかし、アラウスがそんな彼を笑わず、鍛えさせたことで、第一部隊で一番足が速いと他の部隊内で噂され、彼を馬鹿にする者がいなくなった。

「こいつは不愛想な見た目しているが、何でもかんでも信じる奴だからな。揶揄いたくなるんだよ。」

 そう小悪魔のようにニヤニヤと笑うヘルメ・マークリーは軍人家系の生まれにして軍の中でも指折りのスナイパーであるが、私利私欲に塗れた軍の上層部や同僚を見かける内に愛想笑いだけを浮かべるが、争いを嫌い、正しく生きようとするアラウスの姿に甘いと呆れつつも感心し、彼との信頼で前線を駆け抜ける。

 アラウスがいる部隊のほとんどは他の兵士である同僚に蔑まれ、軍の上層部に馬鹿にされた者たちばかりで、彼はそう言った者たちを集め、絆を結び、最強の兵士として鍛え上げ、実力を積み重ねたことで第一部隊と言う栄誉を得た。そのことを知ったロードは感心と尊敬という感情が生まれ、彼の部隊に入ってよかったと心の中で歓喜を創り出す。

「まったく、お前らは…」

「アラウス。ヘラクレスの十二の難行の続きを教えてくれ!ヒュドラとの闘いの後の試練は何なんだ?」

「出会う前と変わりすぎなんだよな、お前…」

 かつて、無心にダムに従い、冷酷に敵兵を処理する永遠不変の機械の存在から、心の拠り所を求め、気のいい感じの真人間になったロード。その劇的変化を促したのはアラウスの教育の賜物か、イレギュラーなバグによる設定変化か、当の本人はどうでも良く、今の在り方で自己満足している。

「ロードは本当に隊長の昔話が好きだな。」

「正しくは神話だけどな。こいつにとっては娯楽以上の教養だと思っているらしい。」

「前に話した日本神話や北欧神話は魅力的だったが、ギリシア神話は特に面白いんだ。どの神話よりも神々と人間が自由に生き生きとしていると感じられる。」

 ロードは戦争が終わるたびにアラウスから人間の知識を学んでいた。覚えが良いロードは旧時代文明かつてのへいわに存在した生活文化や学習教養などをすぐに理解し、話のネタに困ったアラウスはかつて民俗研究家だった父親から聞かされた神話を話した。結果、ロードは予想以上に喰いつき、寝る前の話が好きな幼児のように、学ぶことが好きな優等生のように瞳の無いはずの目を輝かせて、聞いていた。

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