第九話:中華四千年の成れの果て

 半月後、中亜連合帝国の領地の一つである四川地区はその残党軍とZU―1番地の兵と衝突していた。中国地帯は人口が多く、残党軍の数もこの時代にトップレベルであった。しかも、その地区の基地の周り一帯には無数の円形の白塔が賽の目のように立てられていた。その塔には無数の全自動機関銃オートバルカンがあり、空の戦闘機や地上の侵攻を防いでいた。新世界大戦の中期では【白林の要塞】と呼ばれ、兵士や軍の上層部は頭を悩ませ、怯えていた。

 飽きぬ銃声、兵士の雄叫び、負傷者の悲鳴が阿鼻叫喚を奏でる中、ロードは全自動機関銃オートバルカンをも超える精度と速さで銃弾の雨を網の目を潜るかのように飛び、その機関銃を次々と斬り裂いた。

 ロードだけを追い駆ける全自動機関銃オートバルカンに目もくれず、5万ぐらいのZU―1番地の兵士たちは8万もいる中亜連合帝国軍相手に突撃する。戦況は陣形などを取らず、まばらに散る中亜連合帝国軍に対し、ZU―1番地の兵士たちは数十人で部隊を作り、一対一ではなく、多対一で追い詰める。結果は全自動機関銃オートバルカンや兵士の数で優っていると確信する大国の軍の油断が排水の陣で孤軍奮闘する小国の軍の慎重さが打ち勝つ。まさに、中華のかつての故事、背水の陣である。

「相手は総崩れだ! いけいけいけーーー!」

「我らが中亜連合帝国の誇りを賭けて、この四川地区は死守せよ!」

 8万もいた兵士たちはみるみる削り、半数の四万に至り、劣勢を覆す中、アラウスは今でも多くの敵軍に特攻する。四方八方から光線弾銃ビーム・バレットによる光弾の雨が降る中でそれらをギリギリにかわし、雨をかき分けて僅かに判断できる相手の姿めがげて、銃剣付き散弾銃ソード・ショットガンを放つ。  

 本来、兵士は塹壕や防壁などの物陰に隠れながら、敵兵を狙うが、アラウスは銃弾をすれすれに回避し、戦場を駆け巡り、遊撃手の如く、翻弄と狙撃を繰り返すという命知らずの戦法を取る。

 しかし、戦前の渦中を駆け巡り、銃弾を搔い潜るこの戦法をかつての日本の戦国時代に例えるなら、生涯無傷を貫き、徳川家康を天下に導いた本田忠勝やその徳川の大軍に単騎で突っ込み、日本一の兵と讃えられた真田幸村などの猛将に通ずる必勝法なのかもしれない。(と過分評価するのは本人の内である。)

 その時、白塔の間をすり抜ける7つの影が現れる。それは黒塗りの戦闘型無人ヘリコプター【黒虎】である。このヘリコプターは通常のものより時速が早く、狭い場所でもぶつかるのを防ぐ自動制御されているAIと全自動機関銃オートバルカンが内蔵されている殺戮兵器でもある。幸運にも【白林の要塞】を突破できた猛者に送る絶望のプレゼントと嘲笑う意地の悪い防衛機構である。

 ロードによって、白塔全ての全自動機関銃オートバルカンを壊されるという緊急事態の搬入した。その彼自身はもちろん、迎撃する為に、超周波振動電磁刃サイバーエッジという刃を突き立てる。

 しかし、【黒虎】はコックピットがない分、AIを護る装甲が想定より厚く、逆に相手側に七体同時の連携攻撃を許してしまう。動かない白塔とは違い、飛び回れる分に射線を自由自在に変えられる相手に対し、白塔の間隔の狭さによって得意のスピードを制限されるロードは分の悪い白兵戦を強いられる。

「ロード! 大丈夫か?」

「大丈夫とは言えない状況だが、あそこなら!」

ロードは回転翼ローターを上手く避けながら、その付け根部分をを斬り裂く。瞬く間に翼を失った【黒虎】が墜ちる。

しかし、それは一体だけの話。他の個体はアラウス率いる部隊を襲おうと、全自動機関銃オートバルカンを構える。

「アラウス!」

 銃弾の雨が降りかかるその時、一つの銃弾が一体の【黒虎】の回転翼(ローター)の付け根部分を貫通させ墜とす。その銃弾は部隊とは別行動を取ったヘルメだった。

「あいつにできて、俺が出来ねぇことはないぞ! 見たか、ロード!」

「流石だな、ヘルメ。アラウスが認めるほどのスナイパーだ。」

「あたぼうよ! ヘルメ副隊長はフィンランドの白い死神よりも腕利きだぜ!」

「分かったか、鉄人! 一体の糞ヘリを倒したくらいでいい気になるなよ!」

「痛い忠告だな。なら、全て潰すのみ!」

 ヘルメの雄姿と彼の仲間の野次を受けたロードは急速に他の【黒虎】全てを同じ手順で、回転翼ローターの斬撃や全自動機関銃オートバルカンの銃撃よりも素早く身軽に回避し、流れるように斬り墜とす。

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