第二話:鉄人という名の悪魔

 ギルバード軍事都市内部では雄たけびを上げる兵士がたった一体の鉄人と共に悲鳴を上げる兵士を狩りつくしていた。

 そんな光景を二階建ての建物の窓と言う安全圏から覗く五、六人の部隊がいた。ZU―1番地に所属するにも関わらず、彼らは自らの意志で前線に向かわない。

 その窓を覗く部隊の二人は敵兵を殺す鉄人を見つめた。その内一人である少し小柄で痩せ細い金髪の男であるヘルメ・マークリーは隣にいる細マッチョな黒髪碧眼の男であるアラウス・タケヤマに話しかける。

「あれが噂の人工兵士シリーズと言われる無限のインフイニティ・戦士たちソルジャーズの完成版ですか。一体だけで次々に兵士を殺せるとわね。もし、量産型になったら、こちらが出る必要がなくなりますね、隊長。」

「俺としてはあの屑に頼るのも癪だし、あの鉄人一体しか戦えない現状では数として有利な俺たち人間の兵士たちがいた方がいいじゃないか。」

 陽気なムードメーカーのようにヘラヘラ笑うヘルメに対し、アラウスは重い面構えで戦場を俯瞰した。

「そんなこといって、隊長だって無理に戦いたくないと思ってるじゃないですか。俺たちが傷つかない為にその鉄野郎に頼ってるし。」

 ヘルメの発言に対し、アラウスはおでこに手を当て、重く溜息をつく。

「半分当たりで半分外れだ。確かに俺は戦いたくないし、お前たち部隊も苦しませたくない。できることなら、このままあいつを利用し、俺たちは逃げたいしな。だが……」

 アラウスは再び戦場を見つめ、その中でも兵士を殺戮する鉄人をただ憤りで睨み、理解できないものを見るかのように言った。

「ただ殺すことのみ与えられた鉄人を見ると、何か苛立つし、舐めてると思うんだよ。命や心ってやつを。」

 深々という言うアラウスに対し、今度はヘルメが軽い溜息を吐き、呆れたように呟く。

「相変わらず甘いな隊長は。」

 だが、彼の口元は笑みを溢す、それほどまでに彼はアラウスという男の性格を認めている。

「でも確かににあいつのような量産型に頼ると、俺たちはお払い箱になって、衣食住ももらえないからな。他の連中も暴動も起こしかねない。」

「そうなったら、荒地に進んだ先に俺たちを受け入れる場所があると信じて、旅をすればいいじゃないか。日本なら差別されるが、何とか受け入れられそうだがな。」

 他の味方が戦う中、自分たちはたわいもない会話をする。それでも、やはりアラウスは鉄人に目を離さなかった。

 敵兵たちは人の力を超えた殺戮兵器である鉄人の前で戦意を失い、恐怖に駆られ、拠点を守る意志さへも捨て、一目散に逃げ始めた。しかし、鉄人はすでにこの場にいる戦場を狩場に変え、自らに背を向ける者たちを血しぶきと悲鳴を上げさせる凌辱を与える。

「助けてくれ! 助けて下さ……ぎゃぁぁぁぁぁ‼」

「くっ、来るな! 来るなぁぁぁぁぁ‼」

「嫌だ! 死にたくない! 死にたくなぁぁぁ……」

 地獄となった戦場を映すアラウスの瞳には血の赤で汚れた大地と同じく血しぶきで己を汚した鉄人の姿が残忍な悪魔に命じられるだけの心の無い人形のように見えた。

 その戦場に赤子を抱え込む大人の女性と男の子が突然物陰から飛び出し、そんな彼女たちを異形が凝視する。その光景にアラウスはある最悪な危機的予感に辿り着く。

(殺される! あの心の無い人形に殺される!)

 そんな不吉な状況が脳内によぎり、咄嗟に二階の窓から飛び降り、彼女たちの下へ駆けつけ始めた。幸いにも、飛び降りた先の布で出来た屋根が落ちる衝撃を和らいだ。

「隊長!」

 ヘルメの咄嗟の呼び方に一刻の猶予も持てないアラウスには届かず、戦場へ向かう。

(殺される! あの親子は無益な戦いとは関係ないはずだ!)

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