第三話:鉄人と兵士の対峙

 一方、戦場で敵を狩り続けた鉄人は敵国に住むと思われる母子三人を見つけ、注視していた。敵正反応がなければ、無視する予定だった。しかし、戦場を徘徊したドローンが彼の思考プログラム創造主うえからの無慈悲な命令が下された。

 ≪KILL殺せ

 母子たちは異形に背を向け、逃げるも、彼女たちの目の前に現れ、片腕を斬りかかる動作で振りかぶろうとする。

「神よ、お願いです! この子達だけは! この子達だけは!」

「お母さん!」

「あーーー! あーーー! あーーー!」

 母は祈り、兄は家族をかばい、まだ幼い弟は泣き叫ぶ。しかし、この鉄人にはそれらに響く心がまだない。これではアラウスが駆けつけるのが間に合わない。

 すると、突然、鋭い発砲音がなり、異形の頭上パーツ一部が弾丸に当たり、負傷した。そ

の弾丸はアラウスの部隊が待ち伏せてる建物の中だった。

 建物内では銃口に煙を吐いたばかりの大きな狙撃銃(スナイパーライフル)を窓の縁に乗せ、構えていたヘルメの姿だった。

 そんなヘルメに一人の部下が心配そうに声をかける。

「ヘルメ副隊長、本当にいいんですかい?」

「後は知らねぇが、絶対上司にいうんじゃないぞ。まぁ、後は任せたぜ隊長。」

 ヘルメは部下に苦笑いで答えつつ、戦場の上司でもあり、友でもあるアラウスの安否を祈った。神にではなく、運命に。

 鉄人は自らに内蔵されたカメラの視界は銃弾の衝撃で灰色の砂嵐と自然的ではないノイズに見舞われたが、すぐに回復し、辺りを見回そうとするが、一番初めで瞳(レンズ)に写った光景は先ほど排除しようとした母子たちを背に庇い、護るアラウスの姿だった。

 鉄人はアラウスを見た瞬間、目を疑い、驚くように思考を加速させた。

(なぜ、標的を守る?)

 その心の声は自らの頭脳AIの判断能力ではない。あまりにも素の言葉だった。その素の感情をすぐさまアラウスにぶつける。

≪言語化プロセス起動。自動翻訳システム共有起動。≫

「そこをどけ。」

「断る。なんで、この親子を殺そうとする。こいつらは兵士じゃないんだぞ。」

「この標的たちは敵国の人間だ。それを庇うとするのなら、お前の軍の規律に違反する。」

「だったら、捕虜にすればいいだろ! 何故、殺す必要がある!」

 アラウスは鉄人を睨み、鉄人も眼に内蔵されているカメラのレンズで鋭い目つきに変える。二人の間にある空気は殺伐と緊迫が入り混じる。その様子を

 その時、鉄人のプログラム内に新たな命令を下す。

「今から十秒以内に私の視界から去れ、さもなくば標的ごとお前たちを殺す。」

「何だと⁉」

 本来、人工兵器である異形に味方兵士を殺すことはできない。あらかじめ、プログラムされた味方誤殺防止フィルターによって、その行為自体禁じられる。

 この発言自体は単なる脅し、相手を普通の一般兵士イキったモブと見越し、市の恐喝で逃げらせる手段である。

「十、九、八、七、六…」

 鉄人のカウントでさらなる煽りを行う。普通の人間なら制限時間が近づくと焦るというセオリーがあるからだ。

 しかし、それでもアラウスの瞳には殺風景な戦場には似合わない強く気高い意志を感じられる。

「………」

 その瞳を見た鉄人の脳裏AIにある動揺バグが浮かぶ。

(何故、あいつは去らない? 死ぬのが怖くないのか? その眼は何だ? 何を見ている…、私は何を思考しているんだ?)

 その迷いを振り払うかの如く、アラウスの前に超周波振動電磁刃サイバーエッジを突き立てる。

「三、二…」

 一秒前、アラウスが重い口を開き、叫んだのは…

「俺は死なねぇ! 俺の国が滅ぼうが、俺の身体が殺されようが、この親子だけは、この覚悟だけは、心だけは死なせなねぇ!」

「…⁉」

 漫画に出てくる幼稚な主人公が吐くような余りにも青臭いセリフだった。そして彼は自らの持つ銃口を異形に突き立てた。

 彼の気迫に鉄人は自らのAIに困惑や恐怖を記し、容量はまだあるのに頭がパンクしそうな痛みと言う名の電流が迸る。

「一、0…」

 鉄人はカウントを終わらせると、突き立てた刃を納め、逃げるようにアラウスと彼が守ったであろう親子たちに背を向け、無言で飛び去った。

「ありがとう…、ありがとうございます。」

 アラウスに敵国の住人であるはずの母親は彼の足元に涙を流し、感謝を述べた。その途端、彼は足元を崩し、地面に尻を突き、寝そべるように倒れた。親子たちは彼が死んだのではと驚いたが…

「ふぅ。慣れねぇことをすると疲れる…か。」

 力が抜けたように安堵した表情のアラウスをドローンが見つめた。そして、鉄人が飛んで行った跡を追うかのように飛び去った。

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