みんなで朝食



 ブロンズランク戦が始まり一週間が経った。俺達女神の騎士パーティーは連日闘技場で戦っていたのであった。


 あの日、俺達は女神ギルド戦という戦いに巻き込まれた。

 落ちた女神クリス。クリスを殺して女神としての力を奪い取る。それが女神狩り。





『あらあら、揉めてるわね。ゲームマスターのジャミロが後は引き継ぐわ』


 俺が女神ギルドの奴らにスキルを放とうとした時、ジャミロが現れた。


 ジャミロは女神ギルド戦の中で特殊な立ち位置についており、権限を持つ者という事がわかった。


 ゲームマスターであるジャミロが取り仕切ってくれたおかげで、女神ギルドの人間……文様が入っている者はクリスを攫うことが出来ない制約課せられた。


 女神ギルド戦、第一ラウンドの勝者がクリスを獲得する事が出来る。

 ……ムカつくな、クリスは物じゃねえんだよ。




 女神ギルド戦が行われるのは一ヶ月先だ。第一ラウンドから始まり、第三ラウンドが最終戦。

 その時までは争ってはいけない、闘技場でのランク戦は除く、という制約がある。

 これもジャミロが決めた事だ。


 だから、俺達は闘技場やダンジョン探索に集中することにした。闘技場で強者と戦って、ダンジョン探索で装備を探す。

 強くなる必要がある。


 仲間を守るためには――




「しゅわしゅわなのじゃ〜! 我はこれが大好きじゃ」


「クリスちゃん、飲みすぎると虫歯になるから気をつけてね」


 冒険者ギルド近くのマックで俺達は朝ご飯。

 最近の日課だ。このくらいのご褒美は構わないだろ?


 週末の今日はブロンズランク戦が無い。ゆっくり休んで、今後の方針を話し合う予定だ。


「ぷはっ〜! そういえば主はマリの事を知っておるのか? マリは主の顔を見ると泣きそうになるではないか」


「まあ色々あったからな。ほら、俺死んだだろ、ユウヤとしては。元パーティーメンバーだからな。バタバタしててまだ言ってねえしよ」


「お、おお!? わ、忘れていたのじゃ」


「マリさんも追い出されたんですよね? ……可哀想です」


 クリスがパーティー申請した事によって、マリは俺達のパーティーだ。

 なし崩し的にブロンズランク戦で戦っているが、マリは自分の存在について悩んでいた。

 一度死んで、生まれ変わったとしても、俺の事が負い目になっているようだ。


 俺が初めてマリとあった時、あいつはすごかったんだよ。剣が生き物にように動いて、今の俺でさえ到底出来ない極地に達していた。ガキなのにさ。


 少し特殊な病気っていうのも知っていた。

 長年付き合っていくうちに、忘れてきちゃうもんなんだよな。


 俺はプリムの肩に手を置く。


「安心しろって。マリとはちゃんと俺から話す。幼馴染だからな……」


「セイヤさん……」


「うむ、我はマリと一緒にいると楽しいのじゃ!」


 ちなみに、マリのステータスはよくわからなかった。


 マリ・オルランド、レベル30ジョブ剣聖(剣を極めし者)


 ジョブとレベルは誰でも調べる事ができる。

 以前のマリはこの『剣を極めし者』なんてなかったはずだ。


 剣聖という職業は大剣、騎士剣、刀、小剣……剣と名が付いている武器は何でも使える。

 剣聖スキル『剣装備時、威力20%上昇』は前と変わらない。


 知らないスキルが存在していた。

 剣聖スキル極み『明鏡止水』

 集中力が最大、瀕死状態で発動。攻撃力200%上昇、防御力を100%貫通、


 剣聖スキル極み『反撃』

 攻撃を躱すと反撃をする。その反撃は相手の攻撃力に比例してダメージが増幅される。

 剣聖スキル極み『無月霧散』

 瀕死時に発動可能、対象のレベルの高さにより威力が増大。



 ステータスはクリスやプリムと違って、普通の剣聖のレベル30のステータスだ。

 だが、剣聖は元々ステータスが高い。


 実際、マリと模擬戦をすると、レベル以上の強さを体感できた。上記のスキル以外に多数のパッシブスキルがあるからだ。


 魔法やスキルを切れる剣士って聞いたことねえぞ。



 マリは今、兄であるハーデスの所へ行っている。女神ギルドの事をハーデスから直接聞きたいみたいだ。

 少し心配だが、ハーデスなら大丈夫だろう。今日の午後には宿屋へ帰って来る。その時色々話せばいい。


 ……ん?


「おい、あれってミンミンだよな?」

「む、仮面被っているからそうなのじゃ」

「誰か探してませんか? 迷子になっちゃったのかな?」


 ミンミンがポテトの乗ったトレーを持ちながらキョロキョロしている。

 そして俺を目が合う。や、仮面だからよくわからねえけど……。



 ミンミンは身体をビクンとさせて俺に近づいてきた。


「べ、別にあんたの事が気になってるわけじゃないからね! 勘違いしないでよ!」


「……お前面倒な性格だな……。まあいいや、座れよ」


 クリスとプリムも頷く。ミンミンはクリスを見て少し気まずそうだ。いや、仮面でも感覚でわかるんだよ。


「え……? いいの? じゃ、じゃあ……」


 ミンミンは俺の膝の上に座ろうとした――


「バカっ!! 膝の上に乗るんじゃねえよ!? なんか柔らかくていい匂いがして駄目だろ!!」


「えへへ、じょ、冗談冗談」


 改めて俺の隣に座るミンミン。

 やはりその視線はクリスに向けられている。


「あ、あのね……、し、仕事でも、クリスの事攫おうとしてごめんね……」


「うむ、仕事では仕方ないのじゃ! 我は寛大なのじゃ。ポテトを所望する!」


「えへへ、ありがとう。これ食べていいよ」


「わーい、なのじゃ! ポテトポテト!」


 そういや、なんでミンミンはクリスを攫おうとしたんだ? 女神の力を奪う目的ってのは知ってるけど。なんでわかったんだ?

 俺はその事を聞いたみた。


「……本当は言っちゃいけないけど、セイヤは婚約者だから話すね。あのさ、うちの女神は超性格悪くて有名なんだ。クリスのお姉さんみたいで……」


 婚約者云々は置いといて……。


「ん? 女神って下界に来てねえんだろ? それでもわかるもんなのか?」


「私達はウラノスギルドの新人パーティー。主な仕事はブロンズ、シルバーにいる他の女神ギルドの連中をボコボコにする事。手段は選ばない……、汚い仕事なんだ。でね、クインビーは女神の神性がわかるスキル持っているの。それで上司に報告したら……他のギルドに奪われる前にクリスを狩れって……」


「そっか……、そんな事話して良かったのか? やばいだろ?」


「うん、やばいかもね。でもさ、あんまりそういうの好きじゃないんだ、うちのパーティーの子たちは。だからジャミロ様が制約付けてくれたおかげで助かったよ。仕事はちゃんとしなきゃいけない、でも、嫌だった。ジレンマだよね」


 クリスはポテトをむしゃむしゃ食べながらミンミンの頭をサワサワした。絶対油が付いただろ。


「我が許すのじゃ。そんな事より来週のランク戦はよろしくなのじゃ! ミンミンパーティーには負けないのじゃ! ライバルなのじゃ!」


「ありがと、クリス。わたしたちも負けないよ! えへへ、勝ったらセイヤと結婚するんだ。でもさ、セイヤってレベル幾つなの? お互い本気じゃなかったと思うけど、すごく高レベルだよね? 私はレベル72なんだ」


 思わずコーラを吹き出してしまった。


「ちょ、汚いって!? でも嫌じゃないよ!」

「お前、レベル72ってなんだよ!! 詐欺だろそれ? ていうか敵にそんな事いってもいいのかよ」


「ええ、婚約者ですもの!」


 レベル72か……、確かに俺の攻撃に反応してたもんな。

 俺はあの戦いの後、ステータスを確認した。

 全ての能力が向上している、それに多数のパッシブスキルを覚えた。


 その中でもこの3つが壊れ性能だ。


『集中』、命中率と回避率が上がる。

『闘気』、攻撃力20%、素早さ20%、上昇。

『狂気』、防御力20%、状態抵抗20%、常時ヒール



 そして、アクティブ女神スキル『時間停止(女神クリスの恩恵」)』

 今の俺のSPの量は80。これでも初期は32だったからかなり上昇した。

 ファイアーボールの消費は2。『一の剣』の消費が16。『一の拳』は20。

 この時間停止はSPが100必要だ。


 あの時は一瞬だけ止めただけだから消費SPは40程度で済んだ。

 それに、最後に剣を召喚した時、身体の中から膨大なSPが湧き上がってきたんだ。


 通常時はあんまり使えねえけど、これは俺の切り札になるスキルだ。……ていうか、クリスの恩恵って事だよな? あいつ、もしかしてすごい女神なんじゃね? 時間が停止できるって……。


「だから狙われたのか……」


 なぜかミンミンが俺の言葉に反応する。


「ん? 私が可愛いって?」

「そんな事いってねえよ!!! ていうか、俺のポテト食ってんじゃねえよ!!」

「うん、食べさせてくれるの? べ、別に恥ずかしくないからね!」


 面倒だからポテトをミンミンの口の中に放り込む。


「もぐもぐ……えへへ、ありがと……、なんかね、こんな風に普通に出来るのってすごいよね。私ね、デスピサロ島って所で生まれたんだけどさ、そこで闘士として育てられてね、色々大変な事があってね……」


「別に言いたくなきゃ喋らなくていい」


「えへへ、やさしいね……」


 妙な沈黙が俺達の間に広がる……。




「あらあら、子猫ちゃんが雌の顔になってるわよ。ふふっ、とっても良いわね。私もご一緒してもいいかしら?」

「ジャ、ジャミロ様……」

「おう、ジャミロ。お前も朝マックか?」


 シェイクを片手にジャミロが俺達の席の間に座ってきた。

 何故かミンミンは恐縮して大人しくなってしまった。



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