化け物たちの宴


 まえがき

 ※セイヤのスキル名が変更されています。


 ************



 上位スキル、必殺技という名は伊達じゃない。


 『一の剣』は音速で無数に剣を繰り出すスキル。

 その変則的なスキル『一の拳』は一点集中攻撃型だ

 衝撃波により遠距離まで効果がある強力な技。


 レベル60程度の攻撃職なら瀕死のダメージを与えられる。


 色黒ギャルは明らかに回復役だった。その子をまずは落とそうとした。が、盾役の色白ふとももギャルに行く手を阻まれる。硬えな、でも貫けねえ硬さじゃねえ。


「フロッグ、ありがとぉ! 今回復するねぇ!」


「うっす……、私がこいつを抑えるっす……、ぐっ……、追加ダメージっす」


 フロッグと呼ばれた色白ギャルが俺の攻撃を受けきった。だが、俺の拳は鎧を貫通して身体にダメージを直接与える。


 それでもフロッグと呼ばれ色白ギャルの守りが硬い。流石はふとももが太いだけある……。

 それも時間の問題。


 俺は次のスキル『一の拳』の準備が出来ている。

 腰だめに構えた拳をフロッグの腹めがけて発射させた――


 拳の衝撃波がフロッグの腹を突き破ろうとした、その時――


「仲間を殺らせないわよ! このおたんこなす!!」


 仮面のギャルが俺のスキルを消し取った。

 フロッグが後ろへと後退し色黒ギャルクインビーによって回復魔法をかけられる。

 俺は仮面ギャル、ミンミンと対峙する。


「いや、どっちが外道だってのさ。てめえら俺の仲間を傷つけた。相応の罰を受けてもらう」


「……私だって本当はこんな仕事やだよ。でもさ、仕事だから仕方ないんだよね、社畜ってやつ? あの子は運がないだけ。さっさとあんたを倒してスコーピオンを回収して女神は攫うわよ!」


「なあ、いま引くならボコボコにする位で勘弁してやる。俺はまだ怒ってるんだ」


「こっちだって引けないのよ! 女神ウラノス様の化身、ボスの命令は絶対なのよ、こんちくしょう!」


 ミンミンが俺に返答すると、フロッグが叫んでいた。


「ミンミンのバカ野郎っす! ウラノス様の事を言っちゃ駄目っすよ!!」


「あっ……、ご、ごめん!? え、えっと……忘れて頂戴。わ、私の名はミンミン、空間魔法を司る乙女よ!!」


 今の俺に冗談は通じない。そんなやり取りどうでもいい。


「空間魔法で俺の衝撃波を消し飛ばしたのか?」


 ミンミンと名乗る少女が胸を張って答えた。


「えっへん、そうよ、私の空間魔法は最強なのよ! あそこで瀕死のスコーピオンとは違うのよ! さあ行くわよ!! 私の空間まほ――えっ……?」


 ミンミンの仮面の下から血が流れ落ちる。

 俺の『一の拳』が空間の内部で女神魔力を増幅させ破壊し尽くした。

 原理なんで知らない、俺は女神の騎士だ。


 その結果、ミンミンにダメージが通った。


「け、消しきれてない? はっ、か、仮面が……はぅう!?」


 ミンミンの仮面が弾け飛んだ。そして、暴走した力がついでにミンミンの上着を消し飛ばす。


「……仮面が……、島のばっちゃんに常に付けてろ、と言われた仮面が……、仮面を見られたら……、相手を殺す……それか――」


 呆然とした表情のミンミン。おい、上半身隠せよ。

 流石にこのままではまずいと思った俺は上着をミンミンにかける。


「別に恥ずかしいわけじゃねえぞ。その、気が散るだろ?」


「……あ、あの、私の目を見ても気にならないの? というか、魔眼が効かないの?」


 ミンミンの目は右目と左目の色が違っていた。

 正直上半身が気になってあんまり目を見てなかった。


「ん? そういや魔眼だな……、ていうか綺麗な顔してんな。……そんな事より戦ってもいいか?」


 ミンミンが無言で俺を見つめていた。俺がかけた上着をぎゅっと握りしめる。

 ほんのりと頬が染まっている。


「……素顔を見られたら殺すか……結婚しなきゃいけない……の。……あ、あの、その、ど、どっちがいい? えっと、あなたの名前は何?」


 流石に俺は突っ込みを入れなければいけなかった。


「おいおい、怖えよ!? なんだよ、その変な風習は!? どっかの部族のアレか?  意味わかんえねよ!! おい、フロッグ、説明しろや! こっちは真面目に戦ってんだよ!! くそっ、俺はセイヤだ!!」


「いや、それは……た、確かにミンミンは顔にコンプレックスがあるっす、こいつは漫画の見すぎで……中2病なんだ……。というか、ミンミンはバカだけど私達のパーティーで最強なんすよ!? わかるっすか、このやるせない気持ちが!!」


 ……とにかくこいつらを制圧する。


「――女神スキル『時間――」


 スキルがうまく使えなかった。パネルを確認するとSPが足りていない。

 手持ちの武器はない。


 どうやって倒そうか思考を駆け巡らせている、その時――






「はい、それまでだ。お前ら一歩も動くな。女神アテネギルドリーダー、キャンサーがこの場を預かる」「うっすうっす」


 冒険者ギルドのキャンサーさんが現れた。キャンサーさんの後ろにはペガサスと冒険者たちがいる。

 女神アテネギルド? 聞いたことねえぞ、そんなギルド。


 その後ろには瀕死のスコーピオンを引きずるアクエリアス。アクエリアスの周りには色とりどりの美女の闘士たちがいた。そのほとんどがゴールドランクの闘技者たち。



「全く、少し目を離すととんでもない事が起きる。はぁ……私の美貌が曇るじゃないの……。ふぅ……今、この場に集いし女神ギルドの諸君。私はもっとも美しい女神ビーナス率いるギルドの長である、美しきアクエリアスよ!」


 そして――


「また会えたな? ははっ、今度はちゃんと説明してあげるぜ! 俺はハーデスギルドのトップ、ハーデス・ノアールだ。ウラノスギルド、抜け駆けは駄目だぜ」


 全然気が付かなかった。七大勇者ギルド序列1位、トップパーティーのハーデス・ノアールが俺の横にいた――


 そして、橋の上に立っている謎の男たち。


「我はポセイドンの化身、海の王者トリトン」


「ふん、俺はタナカケンザブロウ、異世界からの召喚者でありセガサターンをこの世界に広めた漢だ」


「ぼ、僕はゼウス様の生まれ変わりのヘルメスです! よ、よろしくね……」


 ……一人だけ妙な立ち位置の男がいるが、これだけはわかる。

 こいつら全員化け物だ。


「女神ミネルバギルド」「女神ヘカテーギルドよ」」「女神ラクシュミギルド、以後お見知りおきを」「女神スカアハギルド」…………。


 聞いたことのないギルド名を名乗る闘技者たちがどんどん集まってきた。



 ****



 どのギルドも今まで一度も聞いたことが無かった。

 凄まじい緊張感と威圧に気圧される。

 プリムたちが俺の元へと駆け寄ってきた。


「セイヤさん! これは一体……」

「なんなのじゃ? 祭りが始まるのか?」

「わ、私は、ここにいていいのだろうか? あっ、は、はじめまして、セイヤ君でいいのかな? 私はマリ……、その、クリスちゃんの友達だ」


 異常事態が起こっている事だけはわかる。



 全員の視線がクリスへと向かう。


「そいつか」「争乱の原因か」「始末してしまえ」「力だけ奪って冥界に捨てればいい」「女神が下界落ちしたなど初めて聞いた」「名も無い女神の力などたかが知れている」「では私のギルドでもらい受けよう」「女神降ろしの義だ」「女神狩りだ」「女神降ろしだ!」「女神降ろしを始めろ!」


 女神ギルドと名乗った者たちの後ろにはいつの間にか鎧を着た闘技者たちが集まっていた。

 見たことある顔もいる。

 主にシルバーランク、ゴールドランクの闘技者たちだ。ミスリルランクの闘技者もいた。


「こ、怖いのじゃ……。わ、我は……」


 怯えているクリスをかばう。

 理由はわからない、クリスが攫われそうになったのと関係があるのかも知れない。


 言葉が勝手に出ていた――



「黙れ」




 こんな子供相手に大人が寄ってたかって何を言ってやがる? 

 頭がおかしいんじゃないか。


「戦いたいなら俺が相手してやるよ」


 身体は震えていない。頭がギンギンに冴えわたる。『ピコン』という無数の音がずっと聞こえる。ステータスの上昇が止まらない。


 キャンサーさんが俺に近づく。

 俺の肩に手を置いた。


「!?」


 それだけで圧倒的な力の差が理解出来た。

 だが、そんなもの関係ない。力が足りないなら今ここで強くなればいい――


 その時、俺の腕にあの文様が現れた。

 これはキャンサーさんやアクエリアスさんが身につけている文様。


「はぁ、文様が出ちまったな。……そっちの嬢ちゃんたちも文様が現れただろ? ……ようこそ、俺達の世界へ。くそ、ブロンズランクの新人が来る世界じゃねえんだぞ……」


 アクエリアスが言葉を引き継ぐ。


「ふむ、安心するがいいわ! この私、アクエリアスは中立よ。あんたたちも静かにしなさい!! さもなくば氷の檻に閉じ込めて差し上げますわよ? ……はぁ、面倒だけど説明するわ」




 ……

 …………


 古から続くギルド戦。

 それは帝都で行われている闘技者たちのギルド戦ではない。


 あれは表の舞台。


 100年に一回行われる裏のギルド戦、裏の闘技場、裏の世界。

 全ては女神の加護を得た者たちだけで行われている女神たちの代理戦争。


 それが女神ギルド戦。


 文様が参加者の証。


 本来なら本物の女神が地上に落ちることはない。イレギュラーな事態を泥棒猫のようにかっさらおうとしたウラノスギルド。


 天界から加護を得た信者に命令をして、ギルド戦を行う。

 特異者『神の化身』は単独でギルド戦に参加する。

 特異者である「ハーデス」「トリトン」「タナカケンザブロウ」「ヘルメス」。



 此度は初めて地上に女神が落ちた。


 落ちた女神クリス、その女神としての力を奪い取って、己のギルドへ献上する。

 その力は絶大なるモノ。

 それが女神狩り。




 アクエリアスの説明が終わると天から声が聞こえてきた。頭の中へ直接響くその言葉。


『クリスは景品だ。第一ラウンドの勝者にはクリスを与えよう。見た目は子供だが、絶大な力を得られるであろう。健闘を祈る』


『あははっ、クリスったら落ちこぼれだから見捨てられちゃったわね!』


『別に景品にしなくても、好きに女神降ろししちゃっていいんじゃない?』


『いなくてもどうでもいい存在……。クリスはいらない子』


『ふふ、どうせ私のかわいいキャンサーが優勝するわよ』


『あら、美貌のアクエリアスを忘れてないかしら? クリスを切り裂いて力を得るのが楽しみだわ』




 その言葉が許せなかった――

 その態度が許せなかった――


 神話の世界に生きる女神たち。こんなにも人間臭く、野蛮で、ムカつくとは思わなかった。



 右手に剣が存在していた。剣は壊れたはずだ。存在しないはずの剣

 俺は天に向って剣を掲げた――


「――スキル『十一の剣』ッ!!!」


 『時間停止』させて破壊力を極限まで高めた特殊スキル『十一の剣』。

 空に向かって幾千の星が逆流するように光が舞い上がる。



『面白い、その力』『あらら、怒ったっちゃ』『ねえねえ、なんであの子は怒ってるの?』『女神に逆らう人間には死を』『はいはい、退散退散』『ふふ、今度のギルド戦は楽しみね』



 声が霧散する――

 その剣を女神ギルドの奴らに向けた。



「やってやろうじゃねえか!! クリスはモノじゃねえ……俺はクリスの…………友達だ!!! 『女神の騎士』のセイヤがお前らをぶちのめす!!」



 心の奥で理解した。


 俺はクリスを守るための存在。


 それが『女神の騎士』――
















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