女神を狩る半グレ


 レベルが存在しない。それは圧倒的な不利なはずなのに、俺は他のブロンズランクの闘技者を圧倒する事が出来た。


 妙なパーティーに絡まれたが、それ以外は無事に競技会も終了し対戦パーティー全て勝つことが出来たのであった。

 ブロンズランクの本戦は来週から始まる。


 1日5回まで対戦の申請ができ、勝てば10P、負ければマイナス5Pとなり、ポイント数で順位を決める。

 来週の事は来週考えればいい。




 宿屋の近くのファミレスで三人で祝勝会をあげることになった。


「二人共お疲れさん! これで俺達は来シーズン、ブロンズランク戦に挑めるぞ」


「はいっ! 良かったです! もっとレベルを上げて頑張ります!」


「むむぅ、今日はこの後ダンジョンに潜るのか? 我は少し疲れたのじゃ……。ご飯食べたら寝たいのじゃ」


 確かにここ最近はずっとダンジョンにこもったり、冒険者クエストをこなしていた。

 少し疲れも出たんだろう。それにクリスとさっきの男たちは妙な因縁がありそうだ。


「そうだな、今日はゆっくりしようか。クリスはさっきの奴らと知り合いか?」


 クリスは首を振る。


「全然知らない奴らなのじゃ。……でも姉者の気配を感じたのじゃ。女神ウラノス、わがままで暴力的で天界のヤクザと言われた女傑女神じゃ。多分、アヤツラは姉者の加護を受けしものじゃ」


「よくわかんないけど、アイツラもブロンズランクになったんでしょ? なら、ギッタンギッタンにすればいいよ!」


 プリムは笑顔でクリスを慰める。

 女神ウラノスってのは気になるが、今はブロンズ戦の事を考えた方がいい。


「そうだな、死合できっちり決着をつければいい。あっ、そうだ、俺、この後冒険者ギルドにブロンズランクになった事を報告して報奨金もらってくるぜ。ふふっ、実はな、2人にプレゼントがあるんだ。ほれ」


 俺は宿屋の女将からもらった子供動物園のチケットを取り出した。


「ふわわ!! 行ってみたかった所です!」

「う、うむ、興味津々じゃ! セイヤは来ないのか?」

「安心しろよ、俺も後で合流する。それまで二人で楽しんでろよ」


 二人はハイタッチをして笑顔で喜んでくれた。

 うん、早く報告終わらせて俺も合流しよう。




 ***




「てめえ等もついにブロンズランクか。すげえじゃねえかよ。っと、報奨金だな。少し待ってくれ。おーい、ペガサス〜、これの報奨金と買い取った素材の換金の計算頼むわ」


「うっす、うっす!」


 冒険者ギルド、受付のキャンサーさんが他のギルド員に仕事を振る。そういや、この人って仕事を他人に振ってばかりだ。


「で、どうよ? ブロンズランクで勝ち上がれそうか?」


「やってみないとわからないし、今期のブロンズは強敵が多そうだ」


「おっ、ちゃんと周り見てんじゃねえかよ。そうなんだよな、少しおかしいんだよな。シルバーランク並の奴らが揃ってんだよな……」


「それに妙なパーティーもいた。なあキャンサーさん、女神ウラノスって知ってるか?」


 俺がその言葉を出した瞬間、キャンサーさんの雰囲気が変わった。


「……お前、その言葉をどこで聞いた?」


「顔こわいって、うちのパーティーメンバーが言ってただけだし……」


 キャンサーさんが目を閉じて考え込んでいた。

 そして――


「わりい、報奨金とかは後でお前らの宿屋に届ける。お前はすぐにパーティーと合流しろ。俺は用事が出来た。いいか、すぐに合流して冒険者ギルドへ戻って来い。俺がいてもいなくても絶対に待機していろ」


 思いの外強い言葉であった。


「ああ、わかった。あとで絶対にちゃんと話してくれよ」




 ***


 剣聖マリ――


「い、一体なんなのじゃ!! プリム、もっと早く走るのじゃ!」


「全速力だよ! はぁはぁ、邪魔な敵が多すぎて、うまく走れないよ! マリさん、右に来てます!」


 私、マリは何故が半グレに襲われていた。

 正確には私ではない、お友達になったクリスちゃんが、だ。


 酒断ちをし、気を紛らわせるために動物園に行こうと思ったらクリスちゃんとばったり出会ったのだ。


 クリスちゃんはとてもいい子だ。アル中の私を本気になって叱ってくれて、話もたくさん聞いてくれた。

 今では水晶スマホでメッセージの交換をし合う仲だ。アル中の禁断症状で手が震えてうまく送信できない時もあったが、最近は峠を越した感がある。

 これも全部クリスちゃんのおかげだ。


 ――黒い鎧を着た賊を切り捨てる。


「はっ!!! プリムちゃんっ、このままアキバに着けば『冒険者ギルドアキバ支店』がある。そこで匿ってもらおう!」


「はぁはぁ、結構遠いですね! さっきから水晶スマホの魔力波のアンテナがゼロ本です! 魔力波が繋がらなくて仲間と連絡が取れないです!」


「プリム、コヤツはらブロンズランクと同等の強さじゃ! この人数はやばいのじゃ!」


 クリスちゃんの素早さのステータスは低い。プリムちゃんは重騎士なのに何故か足が私以上に早い。

 クリスちゃんをおんぶしてこのまま走り抜ければギルドへ到着できる。

 今の私でもどうにか倒せる賊だ。


 スキルの弓矢が飛んで来た。私の弓よけスキルが作動して矢がポトリと落ちる。

 到底巻ける賊の人数ではない。後ろから追ってくる十数人の賊。それに前からも襲いかかってくる。


 プリムちゃんと私が剣を振るってどうにか逃げ道を作る。


「なんで我を追ってくるのじゃ!! 我はただのかわいい普通の女の子なのじゃ!!!!」


「クリスちゃん、女神だからかな?」


「はっ! そ、そうなのか? 我の高貴さがやっと伝わった……、違うのじゃ!こんな輩に崇拝されたくないのじゃ! それに、こいつらは我を攫おうとしたのじゃ!」


 突然景色が歪んだ。

 アキバ鉄馬車駅近く、肉のマンセイという店がある橋。

 走っていた身体が硬い何かにぶつかった。


「はぶっ!? いたた……」

「くっ……、この空間は一体? ……しまった、賊が…」

「も、もしや、これは結界魔法? しかし、ここは下界なのじゃ。この魔法を使えるのは……」


 ナイフを四方に投擲をする。一定の距離でナイフがカラリと落ちる。距離にして50メートル。かなり広範囲の壁だ。

 見えない壁を押しても通れそうにない。

 眼の前には数十人の賊がいた。汚い笑みを浮かべていた。


 プリムちゃんの息が荒い。


「……クリスちゃんは渡しません」


「ああ、そうだ。こんな汚い奴らに渡せるものか。……えっ、プリムちゃん、その怪我はどうした!? いつの間に……」


「えへへ、しくじっちゃいました。なんか、どっかで針が飛んで来てとっさに手で防いだんですけど……この針抜けないんですよ……。血が止まらなくて……」


「プリム! 右手に穴が空いてるのじゃ!? すぐに回復魔法をかけるのじゃ!! こ、これは毒じゃ……。すー、はぁ〜、我は女神クリス、こんな毒なんて回復させるのじゃ!!!」


 クリスちゃんがプリムちゃんに回復魔法をかける。

 それでもプリムちゃんは剣を握ろうとしていた。


「ううん、私、クリスちゃんを守る。セイヤさんならきっとそうしてた。……ここを守りきれば、絶対セイヤさんが来る」


「喋っちゃ駄目なのじゃ!! 我は、我はプリムを失いたくないのじゃ!! ええい――」


 私は馬鹿だ。

 あの日、酒場で呑んだくれた後、クリスちゃんに出会った。あの時クリスちゃんに出会わなければ私は……自殺していた。

 最後の酒だと思っていたんだ。


 そんな私に、友達が出来た。

 バカな私を馬鹿にせず、真剣に答えてくれた。


 ……そっか、私、ここが死に場所なんだ。


 忘れていた闘争心。嫌いだった闘技場の戦い。


「……私、クリスちゃんに出会えて良かった。待ってて。絶対、絶対に私が守る――」

「マリッ!!」

「マリ、さん……」


 私は剣聖マリ・ノアール。ブロンズ落ちの元ミスリルランク、レベル28。

 温泉宿の末っ子。勇者の兄と比べられる人生。

 誰もかれも私を馬鹿にした……、ユウヤを除いて――


 将来の夢はお嫁さん。

 その夢は来世で叶えればいい。


 力を、力を私に――

 友達のために――




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