ブロンズランク戦選考競技会
「なんか懐かしいな。この雰囲気」
ブロンズ、シルバーランクが集まるダイバ闘技場。
来シーズンの出場パーティーを選考するための競技会。
俺達は闘技者としての条件を満たしたが、公式戦で戦えるとなるとこの競技会で一定の順位を示さなければいけない。
そうしないとパーティーの数が多すぎる。
「はいはーい、こっちで受付するので並んでくださいね。あっ、前回でシード権を獲得した人はあっちの受付でーす!」
ゴールドランクの闘技者が会場のスタッフとしてバイトをしている。もしもならず者がいても大丈夫なように護衛も兼ねている。
俺も昔バイトをしたことがある結構な給料をもらえる。
「き、緊張してきました……」
「うむ、わ、我は別に大丈夫なのじゃ。……その、トイレはどこじゃ?」
「すぐに受け付け終わるからちょい待ちな」
本当はパーティーメンバーは最低四人必要だ。
この競技会に関してはフルメンバーである必要はない。
後で登録をすれば問題ない。
……色々事情があるメンバーだから、中々仲間が決まらねえんだよな。
信用できる人間が必要だ。
人と信頼関係を結ぶのは難しい。
ジャミロが俺達にメンバーの紹介をしてくれようとしたが、丁重にお断りした。
とりあえず競技会を乗り越えたらメンバーを探せばいい。
「すごい熱気ですね! あそこにいるのってミスリルランクの『ライオンハート』じゃないですか! あっちはオリハルコンランクの『紫龍破斬』です!!」
それだけじゃない、有名パーティーのメンバーがこの会場に多数存在している。
ブロンズシルバーランクの競技会でこんな風に集まることはない。
なんでだ?
会場の一角がざわついている。
闘技場の第三グラウンドの方だ。高位闘技者たちの視線はそっちに向いている。
「おい、そこにいるのが新しい『勇者』のジョブを得た奴なんだろ?」
「ああ、勇者オルテガとアントワネット家の聖女ミリム、まだ二人パーティーだが、凄まじい強さだな」
「勇者はレベルアップすると他のジョブの比じゃねえステータスの上昇するんだろ」
「なんにしろ、来シーズンの賭け闘技場のブロンズはあいつらにベットすりゃ勝てんな!」
「今回は勇者だけが目玉じゃねえんだよ。あっちにいる『炎獄騎士』と『魔剣士』もやべえぞ」
「豊作すぎじゃね? 俺は獣人パーティーの獣王エルザたん推しだ。あの子は伸びるぜ」
……なるほど、だから異常に会場が盛り上がっているのか。
勇者は特別だ。この世界を救うほどの力を秘めた存在。七大ギルドのトップパーティーの殆どは勇者で構成させているほどだ。
……エルザたんか……、確かに可愛い。後で死合を観に行ってみようかな。
***
「はっ、んだよ。ガキばっかじゃねえかよ。こんなで戦いできんのか? ミンミンよ、俺達が一番強かっただろ」
「スコーピオン、ちょっとイキりすぎよ。はぁ、仕事だから仕方ないよ」
「おほほ、愚民どもが湧いていますわね」
「……帰りたい」
そのパーティーは明らかに異質だった。競技会参加ブロンズバッチを胸に着けているという事はブロンズランクの申請なはずだ。
周りは誰も気がついていない。高位ランク闘技者たちでさえもこいつらを見ていなかった。
「はっ!? あ、あれは……、隠れるのじゃ!」
「お、おい、クリスどうした? あいつらと知り合いなのか?」
クリスは突然アイツラから見えないように俺の後ろに隠れた。
身体が少し震えている。
「……わからんのじゃ。嫌な気配を感じたのじゃ。あれは……姉者の雰囲気にそっくりなのじゃ」
「姉者? 天界の時の家族か?」
「くわばらくわらば……」
確かに異質だが、普通の人間に――
ん? パーティーの男と目があった。何故か俺はメンチを切られていた。
「おい、てめえ何見てんだよ? 喧嘩売ってんのか? やんのか、こら」
俺に駆け寄る男。
真っ赤に逆立つ髪に獰猛な瞳。殺気がダダ漏れだ。
男が俺の胸ぐらを掴み、殴りかかろうとした――
激しい衝撃音が辺りに響く。
……
…………
男が腹を抑えてうずくまる。とっさの事で身体が動いた。不可抗力だ。
「…………良いパンチじゃねえかよ……。ありえねえだろ……、この俺の不意を付いただと? ただの闘技者希望じゃねえな、てめえ」
無意味な暴力は好きじゃない。本能が止められなかった。
男がうずくまりながら、人差し指を俺に向ける。
人差し指に魔力が集約して、その光が――
放たれる前に、男の腕に剣が落ちる。
「……曲芸師か? てめえは俺の攻撃を予測していたのか?」
俺の足元に大きな穴が生まれた。男の指から放たれた『何か』が床を破壊した。
男が殴りかかるその前に、装備していた剣を宙へ放り投げた。そして、重力により男の腕に突き刺さったのだ。
大きな地響きが聞こえた。
プリムがブロードソードを構え、俺の前に立つ。
「……セイヤさんを攻撃するなら私の敵です」
「そこまでよ! ごめんね! うちのスコーピオンが……この子バカで単細胞でアホなのんだよ。競技会が終わって気が高ぶっててさ」
中華服と呼ばれる特殊な武道着を纏う仮面姿の女の子、俺達と男の間に割って入る。
その視線の先はクリスを見つめていた。
「……ふーん、そっか。だからスコーピオンが反応したのね。あははっ、良いわ、良いわよ」
中華服仮面女子の後ろにいる地雷系女子とギャル系女子も武器を取り出した。
俺達の周りがにわかに騒がしくなる。
「フロッグ、クインビーも武器をしまって。……また会いましょうね。競技会頑張ってねイケメンの女神の騎士さん」
俺達に絡んできたパーティーは会場を去っていった。
ざわついた周りから聞こえてきたのは――
「あいつらエルザたんたちを瞬殺しやがったぞ」
「なに!? エルザたんはレベル30近くあるんだぞ!」
「しかもいけ好かねえ男一人で四人を倒しやがった」
「中華服の女の子って結構可愛くね? 地雷系も悪くないぜ!」
「いやいや、エルザたんには負けるだろ。なにせエルザたんだぜ」
「おい、エルザたんの第二死合始まるぞ! 応援しに行くぜ!」
……おいっ!? もっと有益な情報くれよ!?
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