最上位の勇者


 闘技場の絶対的な王者であり、ギルド戦の覇者であり、幾度も帝国の危機を救った勇者ハーデス。

 その存在は生きる伝説であり、水晶映画や演劇、小説、冒険活劇漫画の題材にされている。


「ち、違うの、ハーデスちゃん! だ、だって、せっかくお手入れした髪が……あの女の子が……」


 ハーデスがアクエリアスに近づく。後ろへよろめくアクエリアス。

 アクエリアスの腰を抱きしめて支えるハーデス。

 アクエリアスとハーデスは今にもキスしそうな距離だ。

 なんだこりゃ?

 目が離せない。プリムもクリスも息を飲んでいる。


 ハーデスがアクエリアスの髪をサラリと撫でる。


「ほらこれで元通りだぜ。安心しろよ、お前は髪が無くてもキレイな女の子だよ」


「え、ええ……、ありがとう」


「おーい、お前ら。ジャミロから聞いたぜ? いい感じのパーティーなんだってな。いっちょ俺も手合わせすっか?」


 一瞬胸が高鳴った。ハーデス・ノアール。俺の憧れの闘技者。俺だけじゃない。全闘技者はハーデスを目指しているといっても過言ではない。


 曰く陸の魔王ゼウスと討伐した、曰く海のポセイドンを討伐した。曰く異世界の魔王タナカケンザブロウを討伐した、と。


 手合わせしたい。動悸が収まらない。

 俺は剣を手にかけて――


「いいねいいね、その目だよ。俺達に必要なのはさ。……まあ手合わせは冗談だ。お前らがとびっきりに強くなったら戦ってやるよ」


「あ、あの……」


「なんだ坊主」


「サ、サインください!!」


「……ぷっ、やっぱガキじゃねえかよ。色々聞きてえ事もあるのだろうに、サインか。ははっ、俺のサインならいくらでもやるよ」


 ハーデスは空間から取り出した色紙にサインをしてくれた。俺の名前入りだ!!


「ん? あれ? いなくなった? ちょ、待てよ!! まだ聞きたい事聞けてねえよ!?」


 サインで浮かれていたらアクエリアスとハーデスはボス部屋からいなくなっていた……。

 くそ、それよりも今はプリムとクリスだ。


「セイヤさん〜! すっごく楽しい戦闘でしたね! またアクエリアスさんと戦いたいですね!」


「お、おう、プリムすげえな……」


 清楚な顔して恐ろしく戦闘狂だ。

 クリスはクリスで凹んでいる。


「我は何も出来なかったのじゃ……。く、悔しいのじゃ……。この悔しさをバネに強くなるのじゃ!」


 俺は大きく息を吐く。

 なんにせよ、全員無事で良かった。

 二人の肩に手を置いた。


「帰ってお子様ランチ食べに行こうぜ。今日はお祝いだ」

「やったー!! うっれしいな!! あっ、調子にのってすみません!」

「プリムや、せっかくならデザートもつけるのじゃ。我はプリンというものに興味があるのじゃ」


 俺達は手を繋いでボス部屋を出た。なんで手を繋いだんだろうな? 自然と手が触れ合っていたんだよ。


 なんだろう、孤児の俺に家族なんていなかった。

 幼馴染たちだけが俺の……家族みたいなものだった。


 景色が歪む。悲しいのか嬉しいのかわからない。変な気持ちだ。


「あれれ? セイヤさん笑ってるのに泣いてる? 痛かったの?」

「なんじゃ! すぐにヒールをかけるのじゃ! むむ、クールタイム……」

「ははっ、大丈夫だ。早く帰ろうぜ」


 こうして俺達のダンジョンボス討伐? は無事に終わった。

 以前のユウヤでは感じ取れなかった何かを感じ取れる。

 そして、ランク帯に似つかわしくない強さを持つ戦士たち。

 アクエリアスが最後に装着した鎧。

 ジャミロの底が見えない強さ。

 同じ模様の入れ墨をしている闘技者と冒険者。


 大丈夫だ。俺には……仲間がいる。もう一人じゃない。




 ***




 プリム、レベル20、ジョブ重騎士(ベルセルク)

 感情の変化によりベルセルクモード発動。

 状態異常回復、ステータスの力と素早さを5倍に引き上げる。

 防御力30%貫通。

 二回だけ攻撃が出来る。

 

 パッシブスキル

 重騎士『防御障壁』パーティー全体の防御力の上昇。


 アクティブスキル

 重騎士『パリィ』攻撃を弾く。

 重騎士『打突』スタン効果の低威力攻撃。



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