ダンジョンボスからの裏ボス
一度死んでから見えないものが見えてきた感じがする。
例えばジャミロの件もそうだ。
あいつは俺達が帝都に初めてきて、冒険者登録をしたあとに絡まれた。そん時はただのチンピラかと思っていたが、今の印象は全く違う。
それだけじゃない。
ダンジョン攻略をしている冒険者、ブロンズ、シルバーランクの闘技者の一部には化け物が潜んでいる。
見えなかったモノが見えてきた。二度目だからか? それとも以前の俺におごりがあったのか?
「ははっ、嬢ちゃんたちは闘技者になりたいんだな? そんだけ才能がありゃ冒険者にだってなれるぞ。どうだ? 冒険者にならねえか?」
冒険者ギルドのクエスト受付に立っているキャンサーさん。蟹みたいな髪型をしている筋肉ムキムキの男。
闘技者と冒険者は仲が悪い。幼馴染たちと初めて来たときは因縁をつけられたんだ。
……今思えば俺達の態度が悪かったんだろうな。
以前はただの受付だと思っていたが、この人は只者ではない。
そういや、腕にはジャミロと同じ模様の入れ墨をしている。……なんか関係あるのか?
「えへへ、ありがとうおじさん! でも私達は闘技場のトップ目指すんだ!」
「うむ、そうなのじゃ。早くダンジョン申請をするのじゃ!」
ダンジョンに入るためにはギルドでの申請が必要だ。
「ははっ、元気がいいな。ガキはこうでなくちゃな。おい、セイヤ今日はダンジョンボスに挑戦するんだろ? ……なんか嫌な予感がするから気を付けろ」
「ん? ああ、あんたがそういうなら……。油断はしないでおくわ」
「おう、素直でいい子だな。頑張れよ!」
ダンジョンボスはダンジョン最下層にあるボス部屋に存在している。
定期的にリポップするので、冒険者はギルドに申請して順番待ちをするのだ。
今日は俺達の順番が回ってきた。
というわけで、ギルドで装備品と道具の確認をし、緊急用の連絡水晶を借りてダンジョンへと向かった。連絡水晶は何かトラブルが起きたときにギルドへ連絡できるものであった。
「うらららぁ!!」
「ま、待つのじゃプリム! もうボスは死んでるのじゃ!!」
モンゼンダンジョン一層のボス、コボルトの上位種であるコボルトキング。
盾役のプリムが攻撃を防ぎ、厚手の剣のブロードソードで牽制をし、俺とクリスが致命傷を与える。
「ふう、これで闘技場の条件もクリアできたな。二人共レベル20になったしな」
あっさりと倒したが油断していたわけではなかった。ダンジョンは危険だ。何が起こるかわからないし、闘技場の戦闘不能と違って死んだらそこでおしまいだ。
ちなみに俺のステータスは一切上がらなかった……。
ボスのドロップアイテムを回収し、少し休んでからボス部屋を出ようとした。
「あれれ〜? なんか君たち強いね。……妙な気配も感じるし。ねえ、君たちって人間?」
入口のところに一人の女が立っていた。
俺はそいつを知っている。
ゴールドランクのアクエリアスだ。女なのにイケメンで妙に女性ファンが多く、薔薇と氷を使う『薔薇氷騎士』のジョブの持ち主だ。
闘技者であり、冒険者ギルドに所属している女だ。
闘技場で対戦した事があるが、そこまで強くなかったはずだ……。
なのに俺の勘が告げている。こいつは……、
「うわわ、すごくキレイな人です……。大人の魅力満載ですね」
「うむ、我の方が可愛いのじゃ! もう少ししたらおっぱいだってボインボインなのじゃ!」
俺はアクエリアスを無視して部屋を出ようとする。
突然入口が閉まった。
「君たちがジャミロが言ってたパーティーね? ……ふ〜ん、ねえ知ってわよね? 冒険者を狩る冒険者って?」
有名な話だ。低ランクの冒険者を殺して装備品とドロップアイテムを奪い奴ら。そこいら中に溢れている。
だが、ここは低ランクダンジョンだ。奪い取っても旨味がない。
「ほえ? それは怖いですね。でもセイヤさんはこのダンジョンでは大丈夫って」
「そうなのじゃ。ここで奪っても価値がないものばかりなのーーん? 薔薇が降ってきたのじゃ?」
「二人共避けろ!!」
瞬間的に素早さを上げて二人を抱きかかえて回避する。
二人がいた場所が爆発したのであった。
「あら? 初見であれを防ぐの。……さあ、全員で本気でかかってきなさい。私はゴールドランク闘技者、そしてS級冒険者のアクエリアス。お相手願いますわ」
闘技者同士でここで戦う意味がわかない。なんでこいつが俺たちに襲いかかろうとするのか意味がわからない。が、戦わなければ死ぬという事だけはわかる。
こいつは本気だ。本物の殺意を感じる。
……アクエリアスの胸元にはあの模様がある。
アクエリアスの薔薇の匂いがする冷気がボス部屋を覆い尽くす。体感温度が真冬と同じ状態となる。
身につけている装備は闘技場で見たことない物だ。
あの剣……魔剣の類か?
なんだこの力は? こいつはレベル40で万年ゴールドランクじゃなかったのか?
そもそも今の俺達にとってゴールドランク自体格上だ。
ただのゴールドランク一人なら俺のステータスがあるから、装備品の弱さを差し引いても勝てるかも知れない。だが、こいつはただのゴールドランクじゃない。
どうする、逃げるか?
ふと、俺の手にぬくもりを感じる。片手だけじゃない両手に、だ。
プリムとクリスが俺の手を握っていた。
「セイヤさん、大丈夫です。これって試練ですよね? ……私達、もう失うものなんてないです。それに、セイヤさんと出会えたんです。だから、絶対にーー」
「そうなのじゃ。ふんっ、こんなやつ天界にはゴロゴロいたのじゃ。我は昔と違うのじゃ。戦女神としてこやつをぶちのめすのじゃ」
二人の顔つきが変わった。幼い子どもだと思ったのに、戦士の顔つきだ。
……そっか、俺に、俺達元幼馴染パーティーに足りなかったモノがわかった。
安全過ぎたルート選択。強すぎた俺のレベル。ぬるま湯のような戦い。死の恐怖に怯えた事なんてなかった。
俺は二人を抱き寄せる。
「はぶっ!?!?」
「こ、これ! 恥ずかしいのじゃ!」
これは俺にとって分岐点だ。楽な道はもういらない。
「ありがとな。なんか色々教えられたぜ。……っしゃ! アクエリアスかかってこいや!!!」
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