シルバーランクの脅威、その名はジャミロ
冒険者ギルド。三時間の講習の後、簡単な実技試験を行う。
レベル10もあれば必ず受かる試験。
試験が簡単だからこそ、冒険者のクエスト中の死亡率も高い。
……俺はプリムとクリスのステータスを見て、自分の目を疑った。
そもそもこの世界のジョブは強さが固定している。レベルが上がるとジョブに応じたステータスも上がる。細かい数字は判明していないが、力A、素早さCなどの大まかな表記でジョブの特性がわかるのだ。
だから、闘技場でも対戦者の対策を立てやすい。もちろん装備品でステータスは大幅に変わるが、基礎ステータスは全員一緒だ。
「いややぁぁ!! てい!」
プリムは修練所の模擬戦人形と戦っている。
プリムのステータスはおかしかった。
レベル10の『重騎士』。力E、素早さG、耐久D、状態抵抗F。こんな感じが重騎士の基礎ステータスだ。
プリムの素早さと状態抵抗、力の数字が異様に高い。重騎士の強さじゃない。それに軒並み他のステータスの平均値も高い。
(だから折れた剣で、防具もなしで魔物を討伐できたのか……)
しかし何故だ? 俺はクリスの力で女神の子になったからわかるが……。
もしかしたら、プリムの称号の欄に『女神の友達』というのが影響しているのかも知れないな。
あとでクリスに聞いてみるか。
「はいあっ! それっ!」
クリスのレベルは10。プリムと同様でレベル10とは思えない強さだ。
戦闘慣れしていない動きだが、こっちもステータスが恐ろしく高い。
魔力の数値はミスリルランクと同程度だと思っていい。
ジョブの戦女神は神官戦士に近い。
回復魔法を使えて、槍と弓の適正があるらしく、中距離長距離が得意だ。
未知のジョブで冒険者ギルドの人に珍しがられたが、「魔法戦士みたいなもんですね! 新規登録しておきますね!」で済んだ。
適当な職員で良かった。レアジョブ者を収集しているパーティーもあるからな。
魔力が数値が飛びに抜けて高いが、それでいて遅いわけでもなく耐久が低いわけでもない。
正直盾役になれる素質もある。
スキル『加護』の力で一定以上の強い攻撃を受けると自分にバリアを張れる。瀕死になると一時的に防御力特大アップを付与し、自分を含めパーティーメンバー全員の強さを20%引き上げる。
……なんだこのジョブは……壊れじゃねえかよ。
しかし俺達にとって有利だ。闘技者はレベルと装備品で相手の強さを図る。上位者になるとレベルが拮抗するから特に装備品を重視する傾向だ。
普通の闘技者がスキルの進化、効果上昇する事はない。
俺たちパーティーを除いて、だ。
プリムは全体の耐久値の強化スキルを持っている。パネルには重騎士スキル系統と書かれてあって、『耐久強化スキル』の文字の横にはレベルと説明が書いてあり、矢印がある。
矢印の先には?マークがあり、新しいスキルが誕生する気配が感じ取れる。
クリスも一緒だ。
戦女神系統スキルの『加護』の横にレベルと矢印がある。
そう考えると俺の能力も異常だ。
レベルという概念が無いため、レベルアップの必要がない。
経験値がそのままステータスに勝手に置き換えられる。
あの時コボルトは倒した時の経験値はランダムに各種ステータスに分配されたが、微々たる量だ。
このジョブ『女神の騎士』の基礎ステータスが異様に高いんだ。なんだろう、その力がとても馴染むんだよ。懐かしくて涙が出てきそうになるんだよ。
まるで今まで自分が培ってきた技術が全部反映されているような――
「あらあら、兄ちゃんここは遊園地じゃないのよ? ガキは家でセガサターンでもしてなさいよ」
二人を見守っていたら他の冒険者に絡まれた。あっ、こいつは有名な奴だ。シルバーランクの闘技者で、修練所にくる新人をいびるのが趣味の口が悪いオカマだ。
「ん? 相手してくれんのか?」
「はっ? あんた私を舐めてんの!? 私はシルバーランクのジャミロよ、ふふん。 ここいらではちっとは有名人なのよ?」
シルバーランクは普通の冒険者やそこら辺の騎士や警備員に比べたら遥かに強い。
ゴールドランクからは化け物揃いだ。その化け物たちを倒して俺はミスリルへと至った。
ジャミロのジョブは道化師だったな。擬態、暗殺、撹乱が得意だ。あまり闘技場には向いていないジョブだが、弱いわけじゃない。強いわけでもない。実際俺も相手にしたことがなかった。
俺は剣を取った。
「かかってこい、このハゲっ」
「お、おま、ちょ、おま、待って、剥げてねえよ、剥げてねえよ!! ほら、ここに髪あんだろ!! ……あんた……ぶっ殺すわ……」
口調が乱れてるぞ……。みんな知ってるぞ。お前、カツラのサイズあってねえんだよ……
クリスをプリムが助太刀しようとしたが、俺は手でそれを制した。
ジャミロがナイフをジャグリングさせる。
正直、初見ならそれで一発でおしまいだ。あのジャグリングには催眠効果があり、状態異常を引き起こす。
下を向けば問題ない。そうすると視界が狭まる。ジャミロはそれを狙ってナイフを投擲する。その投擲も擬態だ。実際の物理攻撃じゃない。地面に刺さったそれは特殊な魔力と反応し、催涙ガスが噴出される。
「あんたすごいね、普通は寝ておしまいなのよ」
頭がおかしいフリをしているジャミロ。道化師の格好もカツラも擬態だ。
誰も彼も欺いて、油断しているモノに牙を剥く男。
かなりの実力者であり、今の俺にとってはるか格上の相手。
剣を一振り。剣風が煙をかき消す。そのまま剣を修練場の天井へと向ける。
ジャミロはそれを見て真顔になった。
「…………やめだやめ。仕事じゃないのに割に合わないわ。クソガキ、邪魔して悪かったね。あーっ、来シーズンシルバーランクで待ってるわ。その時は本気出すわ」
喋っていたジャミロが糸が切れるように崩れ落ちる。人形だ。そして、天井から本物のジャミロが降りて来た。
「ふえ?」
「な、なんなのじゃ!?」
プリムとクリスが驚いていた。こいつの本体は上にいた。この技は闘技場でも見たことなかった……。こいつはシルバーランク闘技場でも本気を出していない。多分この技をここで見せてるって事はバレてもいい技だ。
「ていうか、ハゲって言ってのはぜってえ忘れないわよ。……じゃあね、女神狩りには気をつけてね」
背筋が凍りつく――
目を離していなかったのにジャミロの顔が俺とくっつきそうな距離にあった。甘い吐息が顔にかかる。
どうやって移動したんだ??
ジャミロは俺のお尻を触って去っていった。
「……そっか、今まで見えてなかったもんが見えるんだな。はぁ、俺も修行不足だったな」
全身から脂汗が流れていた。正直ジャミロを舐めていた。ちゃんと対峙してわかった。あいつは全盛期のレベル60の俺でも勝てない。
ユウヤの時は目にもくれていなかった。ただの雑魚だと思っていた。
そんなことはない。ジャミロはオリハルコンランクと渡り合える実力の持ち主だ。
相手の実力がわかるのも自分の力の一つ。
多分、女神の騎士のジョブのおかげだ。
感覚が鋭くなったのか? これによって感覚でジャミロの擬態がわかった。
煙の出したあのナイフの投擲も、実は不可視の刃を俺の腹めがけて投げつけていた。
剣を振るおうとした時、身体に鋭利な糸が絡まっていた。
戦う前に俺に話しかけている時にジャミロの服従の魔眼が発動していた。
それらの全てを『女神の騎士』のステータスで乗り切った。
「てか、試す相手じゃなかったな……。やべ、一歩間違えば死んでたぞ」
今まで俺がジャミロを相手にしていなかったのでなく、ジャミロが俺達を相手にしていなかったんだ。
なんであいつシルバーランクなんだよ……。
今まで感じなかった、闘技場の闇の一旦を垣間見た気がした。
その時、頭の中でピコンッという音が鳴り響く。
あっ、女神の騎士スキル『一の剣』を閃いた。
え……、スキルってこんな風に増えんの????
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