俺だけレベルという概念が存在しない件について


「死ぬかと思った……」


 地面に大の字になって倒れた。力を全部使い切った。死ぬかと思ったのに死ななかった。いや一度死んだのか?

 眼の前に変なパネルが浮かんでいる。


 ステータス表記? 強さが可視化しているのか? レベルの項目がない……。


 通常、英雄たちは念じれば自分のレベルのみ確認できる。帝国技術者の長年の研究により、ジョブ毎にレベルが上がった時の強さが固定されていると判明している。

 

 闘技者としては一般常識だ。相手のジョブの強さがわからないと戦術も組めない。


 レベルが高ければ高いほどこの世界では強者とされている。

 ただ、同じジョブ、レベルでも装備と生まれ持ったスキルによって個々の強さは変わってくる。


 俺の生まれ持ったスキル、『他者の強さを20%上昇』はとても強力なスキルだ。それもありレベルが落ちたとしてもギリギリまで追放はなかったが……。


 一般人が細かい強さを知りたい場合は、冒険者ギルド役所が闘技者ギルド役所へ行って、水晶鑑定で確認する必要がある。


 ――しかしこの数字は一体……? 一般的な水晶鑑定だとS〜Fランクで今現在のジョブレベルのステータスのざっくりとした強さがわかる。このパネルは水晶鑑定よりもステータスの項目が多い。


 もう一度念じてもレベルが出てこない。まるで存在していないようだ。英雄としては異常だ。





 ちびっこたちが倒れている俺の顔を覗き込む。


「……助かったのじゃ、礼を言うぞ。ありがとうなのじゃ」

「あ、ありがとうござます! その、だ、大丈夫ですか?」


 俺は立ち上がり軽く手を振る。


「ああ、身体は大丈夫だ。訓練なら最低でも四人いねえとあぶねえぞ。初心者ならギルドのダンジョンの方が安全だ。ていうか子供は家に帰れ」


 そう言いながらも俺はパネルを確認する。よくわからないが、とにかくレベルの減少は無くなったんだ。死の恐怖に怯えなくて済むんだな……。


「……パーティー、戻れるかもな……、あっ、無理だ」


 俺は離脱届けに魔力印を押した。あれは重要な書類だ。一度離脱したパーティには戻る事が出来ない。そうしないと、パーティー間でスパイが増えるからだ。


 ……どうせ戻った所でお荷物で嫌われてるしな。


「なんじゃ、お主大人なのに泣いてるのか?」


「別に泣いてねえよ」


「まあよいのじゃ。……ぬしのパネルを見せるのじゃ」


「はっ? お前にこれが見えてんのか? ていうか、お前これが何か知ってるのか⁉」


「ふむ、我はクリス、この世界の大いなる神々の一端である女神なのじゃ!!」


「はぁ……、子どもの遊びか」


「クリスちゃん、知らない人にいつもの冗談言っちゃ駄目だよ! え、えっと、私はプリムです。ジョブ重騎士でレベルは10です! あ、あの闘技場のユウヤさんですよね! いつも動画配信見てます! で、でも、その、そんなに若かったでしたっけ?」


「え……」


 パネルには年齢が記されてあった。俺の年齢は22歳のはずなのに15歳になっている? それに名前の項目欄が空白だ……。


「待つのじゃプリム! 我が大切な話をしてるのじゃ! よいか、主は一度死んだ。我の女神の力で蘇り覚醒したのじゃ、ふふん。といっても、下界落ちした我の力はちっぽけじゃ。ほんのちょっとのきっかけを与えたに過ぎない」


「すまん、訳わかんねえ。確かにおかしな状況だが……、ちょい待ち」


 パネルの隅っこには称号というものがあった。そこには――『女神の子』というものがあった。

 普段の俺ならこんな冗談信じねえが、俺のレベル減少が回避された。


 と、その時パネルから通知が来た。

『クリスからパーティー申請が来ています。許可しますか?』


「ポチッとな! これで主は我の友達――、や、信者なのじゃ!」


 クリスと名乗るちびっこが俺のパネルを勝手に操作しやがった。


「お、おい、何してんだよ! パーティーは一度加入したら……、っておい、お前泣いてんのか?」


 クリスと名乗る小さな女の子が泣いていた。


「……ひっぐ、やっと、やっと、我の仲間が見つかったのじゃ。天界から追い出されてホームレスになって10年、やっとなのじゃ……。元の場所に戻るためには闘技場を制覇しなければ……」


 なんだ、お前も追放されたのか……。

 クリスを見ると苦笑いをしていた。だが、真剣な表情でもある。


「えへへ、私も家から追放されたんですよ。……ごめんなさいね、あの、私からもお願いがあります。その……、私達に闘技場の戦い方を教えて下さい!」


「お願いなのじゃ、友達……信者になってほしいのじゃ……」


 二人は俺の胸にすがりついてきた。なんだって言うんだ? この状況は? 

 ……はぁ、どうせ一度死んだ身だ。


「とりあえず街に戻って話そうぜ。状況はわかんねえけど、何かの縁だ。ていうか、俺一度死んだから名前がねえんだよ」


 さっきからパネルを操作して名前をユウヤに登録しようとしても出来なかった。

 どうすっかな……。


「む、ならば女神である我が、名を授けよう! えーと、えーと……、主は……『セイヤ』じゃ! うむ、かっこいい名前なのじゃ!」


「ちょ、おま――」


『セイヤで名前を登録しました。女神の名付けによりジョブ『女神の騎士』となりますた』


 女神の騎士? そんなジョブ聞いた事もねえぞ? ていうか――


「おいおい、セイヤになっちまったじゃねえかよ!? はぁ……まあいいか。どうせ死んだ身だ……」


「うむ、セイヤよろしくなのじゃ!」

「うん! セイヤさんよろしくね!」


 二人は顔をぱあっと輝かせながら俺に言った。

 なんだか悪くねえな。昔の自分と幼馴染を見ているようだ……。



 多分この出会いが俺の本当の始まりであったのだろう。

 二人を助けたと思ったら、逆に死ぬ運命の俺を救ってくれた女神を自称するちびっこクリス。

 天然ボケでぽわぽわしている重騎士プリム。


 そして、レベルという存在がなくなった俺は『女神の騎士』という新しいジョブを手にした。

 


 




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