運命的な出会いは突然
俺の心臓の鼓動が早くなる。このまま見過ごして山を抜けるとは出来る。違うルートを通ればいいだけの話だ。
足が震えている。だけど――
――最後が人助けならいい人生だ。
ウェアウルフの周りにはコボルトの群れもいる。
小さな女の子が盾を振り回しながら対抗しているが長く持たない。
……レベルが落ちたとしてもこれまで培ってきた経験はなくならない。固有スキルも存在している。
頭をフル回転させて戦術の構築を開始する。ほんの一瞬で俺は魔物の行動予測を終える。
――最後まで持ってくれよ、俺の身体。
「おい、ちびっこ達!! 俺のスキルで一時的にお前のレベルを向上させる。重騎士ならパリィで弾いてウェアウルフが怯んだ隙に後ろに下がって逃げろ!! 俺が道を作る!」
「え、だ、誰ですか⁉」
「いいからウェアウルフの攻撃に集中しろ!!」
「は、はいぅ!」
極小の威力の炎魔法でコボルトたちをひるませる。あいつらは炎が嫌いだ。
女の子がうまいことパリィを成功させる。そして、コボルトの群れを突破することができた。
俺と女の子たちが交差する。
そこで、盾を持った女の子が地面に倒れ込んでしまった。
「に、逃げてください。わ、私、もう限界で……」
「プリム⁉ 足を怪我したの! う、うう……、せっかく抜けられたのに」
コボルトの群れとウェアウルフの視線が俺に向く。
プリムと言われた女の子の足にはコボルトの牙が刺さっていた。最後の力を振り絞った撤退だったんだ。
盾の子よりもさらに小さな女の子は泣きながら途方に暮れていた。
心がすっと平静になった。
そういや、あいつらとこんな場面あったよな……。瀕死のエストをマリが泣きながら回復薬を使って、俺とハヤトが迫りくる敵と対峙する……。
頭を振った。もう違うんだよ、俺は追放されたんだ。
「あとは俺に任せろ」
「ふぇ……?」
小さな女の子の頭をそっと触る。
そしてウェアウルフと向き直る。
一撃でも掠れば俺は死ぬ。だが、少しでも時間を稼げればこいつらの生存確率が上がる。
ならやるしかねえな。
「おい、ちびっこたち! お前らは這ってでも逃げろ!」
俺の最後の戦いが始まった――
***
ウェアウルフは知能が高い。
俺の弱さを理解している。コボルトに攻撃をさせていたウェアウルフが首をかしげていた。
俺がいつまで経っても死なないからだ。
「くそっ、マジックアイテムを持ってくりゃよかったぜ」
悪態を吐きながらも俺はコボルトの集団を的確に討伐していく。
剣でコボルトの急所を突く。レベル向上のスキルは自分には効かない。培ってきた技術はなくなったわけじゃねえ。
魔法スキルの再使用のクールタイムはレベルが低いからかなり長い。まだ魔法は使えねえ。それでも――
スロットで鍛えた動体視力で全てを俯瞰する――
ギリギリのラインでコボルトの攻撃をかわす。頭が冴え渡っている。多分、死ぬ間際の一瞬の輝きだってわかっている。攻撃が目視で全て見える。身体が追いつかない。自分の身体能力を頭を一致させる。
こんな魔物に苦戦した事なんてなかった。死んでもいいと思った。だが、今俺が死ぬと後ろにいる女の子たちも死ぬ。死ぬわけにはいかねえんだよ!!
女の子たちが逃げられているか確認する余裕はない。
俺は最後のコボルトの頭を貫いた。
ウェアウルフが笑うように咆哮をあげる――
獲物を狙い定める目。
圧倒的な戦力差。
ウェアウルフが鋭い爪を俺に向けながら迫ってきた。
もう限界だった。剣を上げられないほどの疲労。魔法はまだ使えない。
……十分だ。これだけ時間を稼げたら女の子たちは逃げられただろう。
悔いはない。どうせ死ぬ運命だ。
「頭ぽんぽん……。なんじゃ、この懐かしい感じは……? もしや、ぬ、主は神の子⁉ あ、諦めては駄目じゃ! 足掻くのじゃ!! ええい、『女神の理修復』」
おいおい、なんで逃げてねえんだよ? 俺、もう動けねえぞ?
後ろを振り向くと、小さな女の子が俺に向かって何か詠唱をしていた。
その間にもウェアウルフは俺に迫り、振り上げられた爪が俺の身体を引き裂こうと――
光が俺を包み込む。その瞬間、俺の身体の中の何かが暴れた――
『レベル0、死亡、パーティー付与経験値消失、名前破棄――『女神の騎士』スキル発動、理修復、魂の再構成発動、復活――レベルNull、この戦闘での経験値を戦闘力数値に変換、回復――』
一瞬、魂が身体から離脱したような気がした。上空から俯瞰して自分とウェアウルフを見た。それもすぐに収まって、俺はウェアウルフと距離を取る。
ウェアウルフの爪は俺の身体にかすり傷を負わせるだけにとどまった。
頭がフル回転に作動する。力が少しだけ戻っている⁉
わけわかんねえけど十分だ。
魔力が身体にいきわたる。魔法剣士としての矜持が俺を突き動かす。
スキルのクールタイム……が無くなった? 細かい事はどうでもいい!
ありったけの力を込めて――
笑っていたウェアウルフの口に剣を押し込めた、そして、炎を魔法を連続でぶち込んだ――
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