第二十二話

 放課後、会長と一緒にプレゼントを買いに行くことになった。

 困惑していた志保に一言告げ、到着したのは以前にも来た大型のショッピングモールだ。

 そこの3階にある雑貨屋にて何かないかと探していたのだが……。


 「はあ……」


 俺は深いため息を吐いていた。

 俺、本当に何してるんだろ……。

 会長が右京にプレゼントを贈る。ここまではいい。

 では何故俺までそれに付き合わされているのか……。

 このプレゼントで右京が会長を好きになることなどありえないだろう。が、それでも好きな人が恋敵へのプレゼントを真剣になって選ぶというのは気持ちのいいものではない。

 ……ていうか、俺は結局どうしたいんだ?

 しょうがないか、と言いつつ毎回会長と副会長の恋路を手伝っているが、 俺はいつからやれやれ系主人公になってしまったのだろう。

 そろそろ本気で二人の仲を妨害してもいいのかもしれない。

 そんなことを考えていると、それまで遠くで商品を見ていた会長が駆け寄ってきた。


 「翔くん翔くん! これとかどうかな!?」

 「……なんですか、これ」

 「下着だよ! 右京くんに似合うと思うんだよね!」


 誕生日で下着……? 女子が男子に……? おかしいだろうそれは。

 しかも、だ。会長が持っているのは男性用の下着ではなかった。


 「……なんで女性物の下着なんですか?」

 「こういうのも、右京くん似合うと思うんだよね!」

 「……」


 ふざけているんだろうか。……もしかしてツッコみ待ちなのか?

 試しに「なんでやねん」とツッコんでみると、会長はキョトンとした表情で首を傾げていた。……どうやら大真面目だったらしい。

 俺は会長から下着を取り上げると、それを元の場所に戻した。

 付近にいた女子高生2人組に軽蔑の視線を向けられた気がするが、それは勘違いだということにしておく。でないと繊細な俺の精神はすぐにでも崩壊してしまうだろう。

 会長は下着を戻すことにブーブーと文句を言っていたが、適当に「右京は下着を送られることを嫌がる」ということを伝えると、素直に引き下がった。

 再びプレゼントを選びに行った会長の後ろ姿を眺めて俺は嘆息した。

 まあ、せっかくの誕生日だし下着なんて送られても可哀想だしな。

 今日くらいは真面目にプレゼント選びに付き合うとしよう。

 何か良さげなものはないかと辺りを見渡していると、ふと気になるものが目に止まった。

 それは縁が漆黒で染められた掛け時計だった。

 同時、以前右京が部屋に飾る時計が欲しいと言っていたのを思い出した。

 それを会長に伝えるべく店内を探していると、ふと背後から声がかかった。

 会長が満面の笑みでそこに立っていた。


 「ねね、翔くん! いいの見つけたよ!」


 そうして見せつけてきたのは……キャミソールだった。


 「……一応聞いておきますが、これって右京への誕生日プレゼントなんですよね?」

 「ん、そうだよ? どしたの?」

 「おかしいでしょう、キャミソールはおかしいでしょう!」

 「なんで! 下着はいいのにキャミソールは駄目なの!?」


 下着もよくねえよ。いつ俺が下着ならいいって言ったんだよ。

 俺は会長の感性は終わっているのだということを思い出した。


 「じゃあこれは!? カツラ!」

 「だから、何に使うんですかこれ!」

 「頭に被せるの! ほら、こうやって!」

 「使い方は分かってますよ! いや、そうじゃなくて! 右京はこんなの使わないでしょ!」


 ついて来て本当に良かったかもしれない。

 誕生日にこんなものを送られることを考えると、右京が可哀想過で仕方がなかった。

 俺はキャミソールとカツラをレジに持っていこうとする会長を引き止め、瞬時に『男友達へ贈るプレゼント』と検索した。

 ちなみに時計だが、ふと値段を見ると予想額の3倍はしていたので、これはさすがに高いだろうと断念した。

 画像検索でヒットした写真をスクロールする。

 最も無難そうなプレゼントの画像を会長に見せつけた。


 「ほら会長! ハンカチとかどうですか!?」

 「嫌だ」


 会長はキッパリと拒否した。

 理由を問うと、やはり無難なのがいけないらしい。

 好きな人への贈り物であるため、もっと工夫のあるものを送りたいのだと。

 だからって下着だのキャミソールだのはどうかと思うが……。

 だがここで焦る俺ではない。俺はここ最近、会長の扱い方が分かってきている。


 「会長、やっぱりこのハンカチにする気はないんですか?」

 「しないよ! だってそれだと普通すぎるんだもん!」

 「そうですか……」

 「そうだよ! 絶対ハンカチにはしないよ!」


 残念そうな顔を作り、ハンカチを元の場所に戻す素振りを見せる俺。

 しかし、俺はハタと何か気が付いたかのように動きを止め……。


 「……あ、そういえば最近、右京がハンカチ欲しいって言ってたような……」

 「……」


 会長は無言でキャミソールとカツラを元の場所に戻した。

 そうして戻そうとしていたハンカチを俺から奪い、大事そうに胸元に寄せた。


 「ほら翔くん、何してるの!? 早くレジお会計しに行くよ!」

 「……はい」


 いやまあ、俺が狙ってやったことなんだけど、こうも単純だと流石に心配になる。

 今度何かしらの詐欺被害に遭遇していないか確認しておこうと思う。



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 伏見ダイヤモンド

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