第二十三話

 学園祭当日。

 俺はいつもより早めに登校していた。

 学園祭準備のため登校時間が普段より早いというのも勿論もちろんあるが、俺がここまで早く登校したのには別の理由があった。

 昨日、会長から連絡があったのだ。

 『明日、大事な話があるから早めに来て!』と。

 以前なら告白されることを妄想しただろうが、もう同じてつを踏む俺ではない。

 期待していたのに勘違いでした、みたいなパターンが一番心にくるのだ。

 

 生徒会室の扉を開けると、そこには既に会長がいた。

 集合時間の1時間も前に来ているので、当然右京と志保の姿はない。

 背後から会長に声をかけると、笑顔で手を振り返してきた。

 これで俺のことが微塵みじんも好きではないのだから、女心とは分からないものである。

 俺は早速話を切り出した。


 「会長、大事な話って何なんですか?」

 「……ああ、その、ね……」


 会長は何故か顔を赤くして言葉を濁した。

 大体会長が恥ずかしがるときって大した話じゃないんだよな、と考えつつ、俺は会長が話し始めるのを待った。

 しかし会長はモジモジと指を絡めて俯いているだけで、一向に話し始める気配はない。

 なんだ……? もしかして、本当に言いにくいことなのか……?

 ここに来て、俺のことを好きになった、とか……?

 

 「……あの、会長。もしかして、好きな人が変わった、とか……?」

 「へ? アタシが好きなのは右京くんだよ?」

 「ですよね」


 そうですよね。変わるわけないですよね。

 俺は納得すると同時、落胆もした。

 やはり女心とは分からないものである。

 じゃあ、何をそんなに恥ずかしがってるんだ……?

 右京を好きなことはもうバレているわけだし、今更何を恥ずかしがることがあるのだろうか。

 もしかして、右京関連の相談じゃないのか?

 いやでも、会長が俺に相談するときって右京が関係しているときだけだし……。

 ふと会長の方を見ると、意を決したかのような表情で俺を見つめていた。

 その緊張感が伝染してしまったのか、俺の鼓動まで早くなってしまう。

 なんだ、これから何を相談されるんだ……?

 解決不可能な問題だったら困る。

 いやいや、会長に限ってそんな大げさなことを要求してきたりするわけが……。

 

 「翔くん! アタシ、この学園祭中に右京くんに告白しようと思うの!」

 「……」


 一瞬、何を言われたのか分からなかった。

 だって、あり得ないと思ったから。あれだけ右京を前にするとテンパっていた人の言葉だとは思えなかったから。

 会長の言葉を聞いて数秒フリーズした後、俺はようやく口を開くことができた。


 「告白、ですか……? 会長が? 右京に?」

 「そうだよ! 学園祭の最終日、キャンプファイヤーがあるでしょ?」


 そうして会長が話し始めたのは、この学校に伝わるジンクスだった。

 いわく、この学校の最終日にはキャンプファイヤーがあり、そこで一緒に踊った二人の男女は結ばれる可能性が極めて高くなるのだそうだ。

 未来永劫みらいえいごう結ばれます、とはっきり公言しないあたりが逆に現実感を秘めていて良い、と多くの生徒に人気となっている。

 ちなみにこの学園祭のメインイベントがキャンプファイヤーである。

 

 「今回は告白だし、アタシだけでなんとかしてみたいんだけど、なかなか良い言い回しが思いつかなくて……。だからお願い! 告白のセリフ考えるのを手伝ってくれないかな!?」

 「……」


 ……嫌に決まっているだろう。

 俺は手を合わせて懇願してくる会長を見てそう思った。

 それに、仮に告白したところでOKなどされるわけがない。

 右京には普段からあれだけ避けられているのだ。

 逆に何故この状況で告白しようと思えるのか、俺には理解できなかった。

 

 ……だが、これは俺にとってはチャンスとも受け止められるだろう。

 ここで告白が失敗して右京に振られてくれれば、俺にも会長と付き合うチャンスが訪れるというものだ。

 最低の……それも絶対に失敗するであろう告白を吹き込んでやろう。

 この前は何だかんだ言って邪魔できなかったからな、と俺は口角を緩めた。

 恋愛は戦なのだ。たとえ妨害したとしても、罰は当たらないだろう。


 「……」


 ……本当にそうか?

 頭に一つの疑問が浮かんだ。


 「……そもそも、会長は右京のどこが好きなんですか?」

 

 何となく気になったので訊いてみた。

 会長は一瞬キョトン、と首を傾げたものの、すぐに顔を赤くし、ニヤけながら話し始めた。


 「……はじめは、一目惚れだったの」


 それから会長が話す内容を聞くたびに、胸が痛くなっていくのを感じた。

 耳を塞いでしまいたかったが、これを聞くのは俺の義務だと自分に言い聞かせ、最後まで聞いた。


 「右京くんを見てるとね、不思議と元気になれるっていうか……笑顔になれるっていうか……。一緒にいたいはずなのに、いざそうなると心臓が普通じゃないほど高鳴って……」


 ……それを聞いて、俺は悟った。悟ってしまった。

 ああ、この人は本当に右京のことが好きなのだな___と。

 初めから俺になんてなびくはずがなかったのだ。

 好きになってくれるはずがなかったのだ。

 彼女の純情を俺が邪魔しても……妨害してもいいのだろうか。

 それで俺は満足するだろうか。心はいたまないだろうか。

 ……答えは否だ。

 まだまだ複雑な気持ちは残るが、俺はようやく決意した。

 決意を固めることができた。

 何だかんだ言って、俺も会長のことが好きなのだ。

 好きな人の悲しむ姿を見たくない、というのはおかしなことだろうか。

 それに妨害までして会長と付き合えたところで、きっと俺は嬉しくない。

 俺は懇願してくる会長を正面から見据えた。


 「会長、任せてください」


 俺は会長の恋路を、本気で応援することに決めた。



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 伏見ダイヤモンド

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