第二十一話
学園祭がついに明日に差し迫った。
校内は出し物の準備のためかものすごい活気で、賑やかな雰囲気に包まれている。
テンションが上がったのか、ふざけて教員に
楽しみなのは会長も例外ではないらしく、笑顔で拳を突き上げた。
「明日からついに文化祭だね! 今年も盛り上げるぞ!」
そんな会長に、俺は遠い目をして答える。
「……そうですね。今日のために仕事がんばりましたもんね。俺なんて一つの作業に10時間はかかっちゃいましたよ」
「え、アタシ30分くらいで終わったけど……」
「……」
会長の言葉は当然のようにスルーしておいた。
アレだ、俺の仕事は外部の人間に発信するポスターなども含まれるため、教員のチェックもあり普通の業務よりも時間がかかるのだ……そうに決まってる。
「……あ、明日から学園祭ってことは、右京の誕生日もそろそろですね」
「……」
ふと思い出し、「去年もこの時期でしたよね」と何気なく口にすると、途端に会長が黙り込んだ。
それを不思議に思い会長の方を見ると、ワナワナと震えていた。
「……あの、会長……?」
「……翔くん、右京くんの誕生日っていつ?」
「え? えぇと……文化祭の最終日なので、4日後ですね」
「……!?」
バッと振り返り、俺を見つめてくる会長。
会長は何をそんなに驚いているのだろう、と俺は疑問を頭に浮かべていた。
会長なら右京の誕生日くらい知っているはずだし、今更驚くこともないと思うのだが。
「……アタシ、知らなかった」
「……? 何がですか?」
「右京くんの誕生日! アタシ知らなかった!」
……マジですか。
「翔くんどうしよう! アタシ何も準備してない!」
「い、いや……去年も何もしてないですし、別にいいんじゃ……」
「ダメだよ!」
会長は俺の言葉を遮ると、グイグイと詰め寄ってきた。
「翔くんはわかってないよ! 好きな人の誕生日だよ!? ていうかその前に同じ生徒会だよ!? プレゼントあげて祝うのが普通だよ!」
「……そうですね」
まあ、俺の誕生日は先月終わったんですけどね。
何かしてもらった記憶がないんですけどね。
今はもう6月だから、5月に誕生を迎える俺の生誕祭は既に終わっている。
誕生日を公言していない俺も俺だが、少しくらい聞く素振りをしてくれたっていいと思う。
「まあともかくそんなわけだから、今日プレゼント買いに行くよ!」
「嫌です」
「よし! それじゃあ早速……………今なんて?」
「嫌って言ったんですよ。明日は学園祭ですし」
俺は
決して右京に嫉妬してプレゼント選びを拒否しているわけではない。
決して祝われなかったことを根に持っているわけではない。これは本当だ。
これまでは言われるがまま、会長と右京の仲を取り持ってきた。
しかし、それも今日の話までだ。
俺だって会長が好きなのだ。これ以上手伝ってたまるか。
俺の発言が予想外だったのか、会長はグイグイと詰め寄ってきた。
「いいじゃん! 右京くんの誕生日なんだよ! ねえお願い! アタシだけじゃ喜んでくれるプレゼントちゃんと選べないと思うし!」
「うるさいですよ! ていうか明日は学園祭なんですよ! 忙しいので行くなら一人で行ってください!」
「嫌だよ! ていうか生徒会の仕事はもう当日の見回りくらいだから残ってないよ! さては翔くん、行きたくないだけでしょ!」
「グッ……。そ、そんなことないですけど」
「なんで目を逸らすの!? ほら、ちゃんと目を見て言って!」
お互いに言い争い、ハアハアと肩で息をする。
そうして一息つくと、会長はニヤリ、と口角を上げた。
「いいの、翔くん? 言うこと聞かないなら、今ここで翔くんの秘密をバラしたっていいんだよ?」
俺の秘密というのは、もしかしなくてもパソコンに保存されているエ◯画像のことだろう。
生徒会室に設置されている書記専用のパソコンには、俺が1年生の頃から貯め続けたお宝画像たちで
その
一瞬は
「フッ、別にいいですよ。どうせここには誰もいませんし」
「クッ……」
痛いところを突かれた、と言わんばかりに顔を歪める会長。
これは勝負あったな、と俺は自然と口角を緩ませた。
会長の頼みをはっきり断れたのは今回が初めてかもしれない。
しかし会長は突然何かに気が付いたようにハッとし、ニンマリと笑顔を向けてきた。
それを不思議に思っていると、会長は俺に問いかけてきた。
「翔くん、今日って何曜日だっけ?」
「……? 水曜日ですけど」
急にどうしたんだ……? 何でいま曜日なんて……。
「……ッ」
そこで俺は気が付いた。
今日は水曜日……つまり、部活休養日だ。
学園祭準備中でもその制度は変わりなく適応されている。
ということはどういうことか……もう言われなくとも分かるだろう。
ガラガラ、という音とともに、生徒会メンバーの会計である志保が姿を現した。
会長が歓喜に、同時に俺の表情が絶望に染まる。
志保がここに来るのが嫌なわけじゃない。
だが今回は、あまりにもタイミングが悪かった。
会長はまだ状況が飲み込めていない志保に近寄ると……。
「ねえ志保ちゃん知ってる? 翔くんのパソコンにはね……」
「行きます! 行きますから少し黙りましょうか!?」
俺は会長と志保の間に無理やり割り込んで会話を遮った。
結局最後はこうなるのか……。
俺は脱力するしかなかった。
____________________
最後まで読んでくださりありがとうございました!
評価や★、コメントなどで応援していただけると嬉しいです(_ _)
伏見ダイヤモンド
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます