第28話
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「イケメンから告白された!?」
「う、うん…」
隣町にあるカラオケボックス。その一室で、私は瑠衣に昨日のことを相談している。瑠衣は一瞬だけ驚いた様子を見せてから、腕を組んで嫌悪感を顔に出した。
それにしても、瑠衣って徹底してケイオスのこと名前で呼ばないな…。
「あいつ…絶対こうなるって思ったからかえちゃんに近づけたくなかったのに。うちが課題の制作で忙しいからって言い寄って!」
「言い寄ってって…」
「大体あいつ怪しいと思ってたんだ! ずっとかえちゃんのことエロい目で見てたもん!」
「あはは…」
一から十まで言い方が悪い。でもそれだけ瑠衣が心配してくれてるのはわかってる。だからやっぱり、好きな人が散々な言われようでもどこか嬉しくなってしまう。
「かえちゃんは勿論断ったよね!?」
「…」
瑠衣の視線から逃げるように目を逸らす。
「…断ったよね…?」
「…返事してない…」
「よかった!」
瑠衣が私の肩を掴む。そしてぐらぐらと揺さぶった。
「もうそのまま返事しないで自然消滅しよ! ね? ね!?」
「あばばばば…」
「あっごめん! 自分で断るの怖いよね!? 私が金○蹴っ飛ばしてわからせてやるから安心して!」
「ま、まってるい、はく…はく…」
ずっとぐらぐら揺らされてるから気持ち悪くて流石に吐きそう。
苦しそうな私を見たのか瑠衣は慌てて揺する手を止めた。一気に揺れが止まるとそれはそれで吐きそう。
「ご、ごめん、大丈夫?」
「だいじょうぶ…」
深呼吸で吐き気を抑え込む。脳の揺れが収まってから瑠衣に向き直した。
「えと、こ、断る気も自然消滅させる気もないかな…」
「…は?」
「わ、私も…少し前から好きで…その、なんて返事をしたらいいか相談したくて…」
「はぁ!?」
瑠衣の綺麗な顔が崩れている。
そのまま彼女は机に置いてあった飲み物を一気に飲み干すと、険しい顔で深呼吸をしてから私に向き直した。
「かえちゃんわかってる? “男”なんだよ“男”! どこに『藤崎』みたいなクズが潜んでるかわかんないの。うちはもうかえちゃんに酷い目に遭って欲しくない。わかるよね?」
「うん。わかってるよ」
「じゃあなんで新しい男なんか…! あのイケメンが『藤崎』と違うなんて言い切れないんだよ!」
「わかってる。でも」
そんなことは、私が一番わかってる。瑠衣だってその前提で話してくれてるはず。
それでも私は。
「でも…ここで立ち止まりたくない」
「かえちゃん…」
さっきまで声を荒げていた瑠衣が大人しくなる。それだけ私の言葉には感情があったと思いたい。
「せっかくまた誰かを好きになれたんだから…ここで立ち止まりたくないよ」
「…本当にいいの?」
「うん。やってみたい」
「次嫌な目にあったら今度こそうちを呼んでね?」
「ありがとう。そうする」
瑠衣は私の目を見て諦めたようにため息をついた。飲み干した飲み物のおかわりを頼むのか内線に向かって受話器を取って、そこから短いやり取りをして内線を切る。
「はぁ〜、うちトイレ行ってくる。頼んだもの来たら頼んでいい?」
「いいよ、行ってらっしゃい」
「ありがと」
そう残して瑠衣はお手洗いに行った。
少しスマホをいじって待っていると、部屋のドアが開く。
「ご注文の品をお届けに上がりました〜」
そう言って入ってきたのは女性の店員さん。瑠衣が頼んだものなので私はよくわかってないけど、さくさくと机に置かれていく。それにしても注文してから届くまでが早いような。
「空いた器お下げして宜しいでしょうか?」
「あっはい、お願いします」
店員さんは手際良く空いたものを下げていく。それにしてもこの店員さん香水でもつけてるのかな、強い薔薇の香りが…する…。
「…」
あれ、なんだろう、意識がぼーっと…。
「ふふ、掛かったわね。さあお嬢ちゃん、あたしの言うことを復唱して?」
「はい…」
目の前の誰かが良く見えない。
強い、薔薇の香りがする。
「貴女が『世界で一番怖い場所』に来るの。言ってみて?」
「わたしが…世界で一番怖い、場所…行く…」
「良い子ね…待ってるわ」
「はい…」
あれ?
もう声がかからなくなった…さっきの声は、誰…?
「ん…ちゃん、ぇちゃん…」
…?
誰かが、呼んでるような…。
「かえちゃん…かえちゃん…!」
この、こえ、は…。
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