第27話
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「こんなものかなぁ」
ベランダに干した洗濯物を眺めながら言う。タオルは乾燥機の方が良いけど、それ以外は外に干す方が好き。
干した洗濯物同士がくっついてないか確認して、軽く外を眺めていると小さく話し声が聞こえて下を向いた。
そこには仲良さげに話す男女の姿。どちらも知っている人で、それはケイオスとカーラさん。
私自身、普段はあまり他人の生活に干渉する方じゃないんだけど…今日は気になってしまう。カーラさんと話してるのがケイオスじゃなかったら…そんなことないんだけど。
いつ二人が親しくなったのかはわからないけど、軽い挨拶では済まない空気で話している。その姿に心がもやりと音を立てた。
カーラさんは私の中で、とっても綺麗な人。褐色の肌に映える赤い髪と輝く青い目が印象的で、性格もサバサバしてて明るいし気さくで話しやすい。この間もお世話になったし…。
ケイオスもそうだけど、カーラさんもモテるだろうな。二人が並んだらまさに美男美女って感じ。
私がケイオスの隣に並ぶより良かったりして…。
「ってマイナス思考良くない」
首を横に振って意識を逸らし洗濯かごを片付けに洗面所へ向かう。するとちょうど廊下に出たあたりで玄関のドアが開いた。
「ただいま」
ケイオスは私を見ていつも通り挨拶をしてくれる。それなのに私は。
「…おかえり」
少しむくれたように返してしまった。ケイオス本人が何かした訳じゃないのに大人気ないと、自分でも思う。
不思議そうに私を見てから靴を脱ぐケイオスに申し訳なく思いながらも、まだ気持ちの整理がついてない。心がもやもやしてちゃんと顔も見れないし、当てつけるように怒ってしまいそうになる。なんて情けないんだろう…。
「楓、具合でも悪いか?」
「そうじゃないよ」
「では何かしてしまっただろうか」
「ケイオスのせいじゃない。自分が悪いの」
そう、ケイオスのせいじゃないのにいつもみたいに接することができない。どうしよう、ケイオスの方も絶対困ってる。
「本当に、ケイオスのせいじゃないの…ちょっと気持ちの整理がつかないことがあって」
「話してほしい。辛いことは抱え込まない方がいいから」
彼の優しさに申し訳なくなった。だめだなぁ私…こんな子供みたいな嫉妬で振り回すなんて。でもうまい言い訳思いつかないし…。
「…なんていうかな、ケイオスが居てくれるのが私の中でいつからか当たり前になってるんだと思う。さっき下でカーラさんと話してたでしょ? それをみたら、なんかもやってしちゃって…」
遠回しとはいえ素直に話してみたけど、ケイオスが固まってる。やっぱり困らせちゃったんだ!
「って、変だよね私。ごめんやっぱなんでもな——」
「楓」
笑って誤魔化そうとしたら名前を呼ばれた。
驚いて言葉が止まる。
「それは、俺を意識してるってことか?」
「え、えと…それは」
「いや、嬉しいんだ」
意識って改めて言われると少し照れるような。
でも廊下で二人して何をやってるんだろう。そう思って私が「とりあえずリビングにでも行こう」と言って歩き出すと、不意にその腕を掴まれる。
「行かないで」
「!」
その声に驚いて固まった。
そんな、急にいつもと違う口調なんて、何を考えてるんだろう。そんな、甘えるみたいな。
振り向くと、ケイオスは真っ直ぐ私を見ていた。でもその瞳は熱を持っているのに少し不安そうで、それなのに私に一つの思いを強く訴えかけている。
「け、ケイオス——」
「好きだ」
「…!」
「楓が、こういった話が苦手なのはなんとなくわかっていた。それでも好きなんだ」
「えと、ケイオス」
「俺を少しでも意識してくれるなら、少し考えてみてくれないか。待っているから」
ケイオスはそれだけ残してリビングに消えていった。その場に残された私は少し呆然として、逡巡する間があって。
「〜〜〜〜〜っ!!」
急に心臓が暴れ出した。
なん…っ。
なんであぁいうことさらって言えるのかなぁ!?
思わず廊下でしゃがみ込む。心臓がうるさっくって敵わないし、顔が、顔が熱い!
どうしよう、こんな顔じゃあ恥ずかしくてケイオスがいる部屋になんか行けないよ…多分まだリビングに居るだろうし。
「…っていうか、廊下ってムードなさすぎ…っ」
わかってる。そんなムードとか求められる人じゃないことは。そういう不器用で真っ直ぐなところ好きだし。
ていうかそもそも意識してるも何も好きなんだけど!?
ケイオスが私のこと好きかわかんないからオブラートに包んだつもりだったのに、勢いで告白することないじゃん!
いつから!?
いつからケイオスは私のことが好きなの!?
っていうか気づかなかったの私!?
あんなに顔に出る人なのに!? 自分が相手を好きになって浮かれてたのかな…。
カーラさんがこの間言ってた“大丈夫”ってこのこと!? 本当に急に告白とか…してきたし…。だからってこんな…追いつかないってば!
どうしよう…一緒に住んでるのに顔合わせづらい。あんな言うだけ言って去ってくようなことされたらすぐに返事出すのもやりづらいし、とにかく顔と心臓を落ち着かせなきゃ…。
そうは言っても抑えようと思って抑えられるなら苦労なんかしてない。ひとまずスマホを取り出して瑠衣に泣きついた。明日相談したいことがあるんだけど、と言ったら瑠衣はすぐにOKしてくれたのでこの答えは少なくとも明日まで持ち越しになりそう。
大きく深呼吸をして一先ず台所に向かうことにした。麦茶でも飲んで落ち着こう。正直飲めるならなんでも良いんだけど、この季節の麦茶って代え難い美味しさあるよね。
…それにしても、あの告白が嫌じゃなかったなら、私の中で“あのこと”も少しは薄れているのかもしれない。そうだといい…そうだといいな。
私はあの時感じた“光”を信じたい。あの闇に差し込んだ光を。
あんなこと、一人で抱えていても前には進めないから。
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