第26話
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本日の魔導陣を撤去後、帰り道にカーラはケイオスの肩を叩いた。
「ケイオスくんケイオスくん」
「…なんだ、カーラ」
ご機嫌なカーラに対してケイオスは嫌な予感でもしたのか不機嫌そうである。だが、彼女の機嫌に変動はない。
「お姉さんね、いい事あったの」
「…そうか」
短いやりとりで去っていこうとするケイオスにカーラは少しむくれる。
「いいのかしらー、楓ちゃんの話なのに」
「!」
楓の名前に反応したケイオスに向かって得意げな表情を返すカーラの“勝ち誇った感”は中々のものだ。
「最近楓ちゃんとお茶会したんだけどね」
「…」
未だ楓に避けられ気味のケイオスからするとそれだけで羨ましい事である。横で二人を見ているミシェルはカーラのテンションが異常に高いことが気になった。
「楓ちゃん、可愛かったわ!」
「知っているが?」
「キレ気味に返す事ないだろお前…」
今ケイオスは感情に支配されつつあるが、二人と共にいるミシェルからすると明らかに『何で』揶揄われているのがわかってしまう。最近ケイオスのテンションが段々と下がっているのを感じて、若干あの時酷いことを言ったかもしれないと反省するミシェルではあったが、流石に落ち込みすぎではと思わずツッコミを入れてしまった。
「それにしても、楓ちゃん綺麗になったわよね。好きな人でもできたのかしら?」
「な…なん…」
「…」
ミシェルはこの時、心からケイオスに同情することになる。カーラが揶揄っている内容を正確に察してしまったのだ。心底ショックを受けているケイオスには申し訳ないが、その答えは言わない。しかしカーラの目的はおそらく焦らせることだと思うと、かわいそうにと思わないではいられなかった。それにしてもこの間とは随分言っていることが違う。楓になにかあったのかもしれないとミシェルは感じた。今は言える空気でもないが。
そうだとしたら、彼女はケイオスを焚き付けたいのかもしれない。
「頑張ってね、『弟』!」
「ぐ…っ」
まだ塞がりきっていない傷を抉るとはなんとむごいことだろう。
(カーラも酷いことするな…)
しかし内心では一応祝福しているミシェルである。しかしもう半分の心は泣いていた。
「まぁほら、脈はあるかもしれないわよ? 避けられてるってことは意識されてるわけだし」
「そうだと…思いたいが…」
「急にヘタレか」
大事なところで自信を無くすからうまくいかないのでは、ミシェルとカーラは同時にそんなことを思った。
「早くしないと取られちゃうわよ」
「それはそうだな。八朔さん美人だし」
「お前ら…他人事だと思って…!」
「あら、他人事だから弄り甲斐があるんじゃない」
「僕は何も言ってないだろ…」
二人…というか主にカーラの発言に怒りの感情を感じつつ、それでもぐっと堪えたケイオスはゆっくりと言葉を落とす。
「か、楓を傷つけたくないんだ」
その拳はぐっと悔しさを表して握られている。その態度にカーラは苛立ちを感じ、俯く頭部を思い切り叩いた。
「ぐあっ!?」
「情けない!」
「…」
驚いた表情で彼女を見るケイオスに、怒りの感情がぶつけられる。
「楓ちゃんは前向こうとしてるのにうじうじうじうじと! 今あの子に必要なのは支えてくれる人なの! あんた好きだとか言っといてそれができないって言うの?」
「なっ、そんなことは言ってない!」
「じゃあなんなのよ。あの子に過去向かせたままほっとくっての? その手を引くのがあんたの役目でしょうが」
「ぐっ…」
言い合う二人。ミシェルは何も言わず彼らを見守っている。
「好きならそのくらいやって見せなさい」
「当たり前だ」
「じゃあ早く男見せなさいよ」
「楓に避けられているんだ、どうしようもない」
「はーっ、ヘタレ!」
「まだ言うか!」
「自分から話しかけに行きなさいよ。結局どっちかが動かないと話にならないじゃない。それこそしっかり告白してダメだったらしっかりフラれてきなさいよ」
「それはっ…そうか」
「フラれる前提でいいのか?」
つい口から言葉が出てしまったとミシェルは言ってから後悔した。それにしてもこの状況、ケイオスが楓に告白したところでフラれることはないと言っているようなものなのだが、本人がそれに気づくのはいつなのか。
「大丈夫よ。あんた頑張ってきたんだから」
「そうだといいが…」
「もう一発いっとく?」
「あ、いや…すまない」
カーラの拳にケイオスがやや怯えている。彼女の拳は男に負けないほど痛いと有名であるが故に、月並みに当たり前とも言えた。
「フラれたら匿ってあげるから言ってきなさいな。男気よ男気」
「まぁ足踏みしてても仕方ないのは僕も思うよ。二人見てると甘酸っぱくて背中痒いし」
「…あぁ、わかった」
そこでコンビニに行くと言っていた二人と別れることに。カーラが歩き出すケイオスの背中に最後のエールをかける。
「明日にでも言いなさいよー! 迷ったら負けるわよ!」
ケイオスはその言葉に振り返らず、ひらひらと手を振って返した。
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