第23話
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「ダメね、失敗したわ」
「そうみたいですなぁ」
人の手もつかぬ荒れた森の中。朽ち果てた古い坑道の中で、二つの存在が会話をしている。
一つは真っ赤なコートにつばひろの帽子、この暗がりの中とは思えない濃いサングラスとブーツ。
もう一つは老爺の声で話す子供程度の身長しかない、大きなローブを被った何か。頭と思しきフードになった部分からは、時折うぞうぞとイソギンチャクの触手の様なものが蠢いている。
二つの存在はおそらく男女なのだろうが、それ以前に人間であると言い難い。
「あの男…本に夢中なんだと思って手を出した途端気づいてきたわ。伊達に“アルカナ”の人間じゃないってことね」
「だから言ったではありませんか、敵もまた相応であると。それはここまで儂が描いた陣を潰した上で浄化したその実績でもわかることです」
見透かしたような言葉を放つ老爺に女性は苛立ちを隠さず、足先で地面を叩きながら歪んだ口を開く。
「だからってあんたのチマチマしたやり方じゃ埒が明かないのよ、ググ」
女性の声に、ググと呼ばれた老爺はどこから出してるのかわからない声でカラカラと笑った。笑う感情は見えなくとも、それを僅かに覗かせるようにフードから見える触手が踊る。
「テトラさんは激しいダンスがお好きなようですな。あいにく儂は淑やかなものが好みでして…そう言ったものは最後の最後に良い輝きを見せるのです」
余裕を見せるググの発言にテトラはあからさまな舌打ちを叩く。その上で自らより背の低い老爺を見下ろした。
「そうよ。あたしは激しいダンスが好きなの。だから良いことを思いついたわ…次は協力なさい、ググ」
「悪い顔ですよテトラさん…女性はもっとお淑やかでなくては」
「見た目だけ綺麗にしても女は磨かれなくてよ」
テトラはググの発言が端から端まで気に食わないという態度を隠さない。それでも二人がこうして現代に居るのもまた理由あってのことであった。
「すべてはあたしの…いえ、ヴァサーゴ様のため。『
そう溢すテトラは今までの不機嫌が嘘だと言うように恍惚としている。それに応えるようにググもまた触手を蠢かせた。
「ヴァサーゴ様こそ魔國とヒトの領域を壊すもの…儂の研究のためにも彼の方にはその威光を取り戻して頂かなくては」
二人はくすくすと楽しげに笑う。それからテトラがブーツのヒールを鳴らして歩き出した。
「あたしは食事にするわ。細かいことはそれから決めましょう」
「畏まりました…」
去っていく相棒の背中を眺めながらググはまた触手を蠢かせる。ローブの裾から出た皺がれた手の爪は異常に長く、その先端で触手をつまみ愛でながらつぶやいた。
「“保険”はどうしましょうかねぇ…」
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