第19話
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最近、ケイオスと目が合わせられないでいる。
理由は簡単。この間うっかりお風呂に入るケイオスと遭遇してしまってから気まずい。
顔を見ると思い出してしまう。私のミスであぁなったのに…。
ケイオス本人もそれを感じてるのか気を遣ってくれてるのか、前より一層距離を取ってくれるようになった。今日居ないのは仕事だけど、最近はそれも増えてきてるようで大変そう。学科とか関係なく倉庫全部整理するのかな?
彼も最近は家電も使いこなして、私が寝坊した時なんかは自分でご飯用意して出かけてるみたいだし…それはそれで嬉しいような寂しいような。
それでも意識的に上手く接することができないのは…この間のが気まずいからのはず、絶対。
そんな私はレポートも終わりやることのない大学生に戻ったわけで…。本当はアルバイトでもすればいいんだけど、生活に困らないどころか貯金するほどお金を振り込んで貰ってる身としては、まるでお金が足りないと言ってるみたいで両親に申し訳ない。我ながら贅沢な悩みだと思う…。
最近はよくカーラさんが遊びに来てたけど、今日は出かけるって言ってたし図書館にでも行こうかな。
本は好きなんだけど無闇に蔵書を増やせるほどの本棚は持ってないし、かといって大きい本棚を買って組み立てるのも大変なのでよく図書館に行く。借りた本の中で何度も読みたいと思ったものは実際に買いに行ったりもする。電子書籍も良いんだけど、読みたい本が必ずあるわけじゃないし。
簡単な支度をして出かけようとドアを開ける。そこでふと横を見ると、隣であるカーラさんの家もドアが開いていた。ひとまず自宅の鍵をかけると横から声をかけられる。
「こんにちは」
かけられた声に振り向くと、そこには背の高い、優しそうな顔つきに長い金糸の髪をした男の人が立っていた。確かこの人は…。
「覚えてるかな? カーラの弟のミシェルなんだけど」
「あ、はい…でも、あまり会わない…ですよね?」
控えめに言うと、ミシェルさんは「あはは、そうだと思う」と軽く笑う。
「普段は在宅の仕事をしてるからあまり家から出ないんだ。えと…八朔さん、だったよね?」
お互いうろ覚え感が否めない。まぁ、顔合わせないし仕方ないと思う。
「はい」
「これからお出かけ?」
「図書館に行こうかと…」
「本当に!?」
急にミシェルさんが食いついてきて驚いた。彼はこれ幸いと言うかのように嬉しそうな顔をしている。
「実はずっと図書館に行ってみたかったんだけど仕事の都合もあって行けなくて…八朔さんがよかったら僕も一緒に行っても良いかな?」
「え…」
あ、どうしよう。男の人と二人きりは少し怖いな。ケイオスでもないし…。カーラさんの弟さんらしいから、大丈夫だとは思うんだけどやっぱり少し躊躇う。
「あ、殆ど初対面の人間にこんなこと言われても迷惑だよね。ごめんね」
「えと、ごめんなさい迷惑とかではなくて」
そういえばあの図書館ちょっと入り組んだところにあってわかりづらいんだよね。そう考えると案内くらいはしてあげたほうがいいかも…。
「あ、案内くらいなら。それでいいですか?」
「良いのかい!? とても助かるよ!」
ミシェルさんは言葉と共に伝わりやすほど嬉しそうに笑う。素直な人、という印象を受けた。
早速ミシェルさんを連れて図書館へ移動する。その間は当たり障りのない話やカーラさんの話を聴いた。少し意外だったのは、カーラさんは案外だらしない人なんだそう。洗濯物をそのへんに放るのでよく靴下が片方だけ見つかるとか。カーラさんって、綺麗でしっかりしててなんでもできる人だと思ってたから、少し驚いたし親近感が湧いた。カーラさんも月並みに人間なんだなぁ…。
少し入り組んだ住宅街を抜けると図書館に到着する。駅前の複合施設に分館があるからか本館もそこまで大きくない。おかげで少し場所も分かりづらい所にあるんだよね。
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