第四話

 翌朝、駅にまた人だかりができていました。みんなホームに集まって上を向いたまま、なかなか電車に乗り込みません。どうしてだろう、と見上げて驚きました。電光掲示板に表示された行き先がすべて「大平和 幸福之助行き」になっていたからです。これではどれに乗っていいのかわかりません。周囲の人々が苛立っているのを察した幸福之助は、身の危険を感じて駅を出ました。


 今日はバスかタクシーを使うしかありません。会社に遅刻の電話を架けると、相手は開口一番「今日は来なくていい」と言いました。理由を尋ねると「あんたのせいで苦情の電話が殺到してるんだよ!」と怒りました。幸福之助は自分は何もしていないことを伝えましたが、「現にあんたがいることで大騒ぎになってるんだ!」と突っぱねました。当分、自宅待機だそうです。


※ ※ ※


 しかたなく家に帰ると、奥さんが青ざめながらテレビを見ていました。並んでニュースを見て、幸福之助の顔も青くなりました。


"ご覧ください。あの街頭ビジョンも、このデジタルサイネージも、すべて「大平和 幸福之助」になっています!"


 どうやら、日本全国あらゆる固有名詞の表示が「大平和 幸福之助」に変わってしまったようでした。そのうち、テレビの字幕もすべて「大平和 幸福之助」に変わりました。

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