第二話

 数日後。


 駅前にたくさんの人が集まって騒いでいました。なんだろう、と近付くと「あっ、あの人です!」と一人の男性が幸福之助を指さしました。隣に住んでいる人でした。すると警察官が飛んできて「ちょっと話を聞かせてもらえるかな」と言いました。「なんですか?」と尋ねると、警察官は駅舎を指さしました。見ると、駅名が黒いペンキで塗りつぶされ、白い大きな文字で「大平和幸福之助駅」と上書きされていました。


 「あなた、本当に何も知らないの?」「書いてあるの、あなたの名前でしょ」「関係ないわけないでしょ」そんなことを聞かれても答えられるはずがありません。むしろ幸福之助は被害者ですから、逮捕されるなんてことはありませんでしたが、その日から、ご近所の人たちは大平和家に挨拶をしてくれなくなりました。


※ ※ ※


「おかしいなあ」


 出社すると、上司がパソコンの前で首を傾げていました。幸福之助が「どうしたんですか?」と聞くと「ログインできないんだよ」と。そこへ情報システムの担当者がやってきて、パソコンを触るなり言いました。


「ユーザー名、『大平和幸福之助』に変更されてますよ」


 それから、また警察と同じような問答が始まり、幸福之助はずいぶん疲れてしまいました。ただ、パソコンには操作ログが残っていたので、なんとか身の潔白を証明することができたのは不幸中の幸いでした。

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