天才子鬼、憧れだった人間に転生する
えちょま
転生
※この作品はフィクションです。鬼ヶ島に酒呑童子はいませんが、いるものとさしてもらいます。他にも色々と実際のものとは違うのでご了承ください。
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約七百年前、世は妖怪が蔓延り人間と妖怪が争っていた『妖人大戦』時代に俺は生きていた。
俺は
(まぁ、鍛錬以外にすることが無いだけなんだけどね。)
そう思いながら俺は今、父上と模擬戦をしていた。周りにいる者たちが俺たちの模擬戦を見て、歓声をあげる。
「さすがは最醜様だ!これなら人間共に勝てるだろう!」
「やはり妖人大戦に勝つのは我々なのだ!」
「詩鬼様も最醜様と渡り合って…いや押しているぞ?!」
歓声の中、一人が声をあげる。
戦っている父上に目を向け質問する。
「…だそうですよ、父上。押されてるんですか?」
「確かに…押されはいるが、負けてはいないぞ。」
「押されてはいるんですね…変な意地を張らないでください…」
「ガッハッハッハ!うるさいぞ、詩鬼!お前いつの間に強くなっていたのだ?」
「さぁ、いつからでしょう…最近は父上とあまり模擬戦をしてなかったので。」
そりゃ鍛錬ばっかしてればなぁ。屋敷にある本も全て読んだし。
父上と話しながら戦いを続ける。
木刀で受け流し、また打ち込む、これの繰り返し。
(いい加減飽きてきたな…打ち込む速度あげるか。)
早めに終わらせたい俺は打ち込む速度をあげる。
今の速度でも周りからは目に見えないほどなのだが、さらに速度をあげたことにより腕が消えたように見える。
「ぐ、ぐぐぐ…!…降参だ!」
父上は徐々に押され始めたと同時に降参した。
「潔いですね…そうゆうところは好感が持てますよ。」
「ガッハッハッ!潔いだろう?…それ以外に好感を持てるところははないのか?」
「はい。」
即答した俺に父上はその後、項垂れながらぶつぶつ文句を言っていた。
…この時、これが父上との最後の会話になるなんて思いもしなかった。
*****
父上との模擬戦を終えた俺は風呂に浸かっていた。
「ふぅ、久しぶりに父上と模擬戦をしたが…さすがの父上も老いには勝てなかったか、随分と弱くなっていたな。」
父上との模擬戦を思い返す。
昔見ていた敵の縄張りに一人で飛び込み、必ず勝利した、全ての妖怪を統べる最強の鬼、最醜の面影はなくなっていたも同然だった。
全盛期の父上だったら今の俺では手も足も出ないだろう。
いつか全盛期の父上を超えてみせる…のだが、俺は──
「──最強の妖怪になりたいんじゃなくて…人間になりたいんだけどね。」
俺が父上にも民にも隠している本心…それは人間になることだった。
自分とは違い、角がなく、肌も赤でも青でもない肌色。そして人間と人間で一緒に楽しそうに遊んでいたりしているのが羨ましかった。
反対に鬼は村を襲い、宝を奪い、人を攫っては、嬲り、犯し、腹を引き裂いて内臓を引き摺り出し喰らう。その時の人間の絶望、恐怖に染まった顔が大好物なのだ。
「…反吐が出る。」
俺はそんな鬼が大嫌いだった。最強の鬼である父上には憧れと同時に、嫌悪感も感じていた。
そんなことを思いながら風呂から上がり髪を乾かす。風呂場から出た時にはもう丑三つ時を過ぎている頃だった。
「もうこんな時間か…さっさと寝るとしよう。」
布団が敷いてある部屋に行き寝床に着く。
薄れゆく意識の中、俺はいつもこの願いを呟いている。
「──どんな方法でもいいから、人間になれますように…」
そう呟き、俺の意識は完全に沈んだ。
*****
次に目が覚めたのは眠ってから2時間ほど経った早朝だった。
なにやら騒がしかったので起きてしまったのだ。
何事かと耳を澄ますと外から微かに鐘の音と民の叫び声が聞こえた。
鐘の音が2回、3回と鳴る。
…これは夜襲の時の鐘を叩く回数だ。
「襲撃者か…それもこんな早朝からか。」
おそらくまだ民が寝ている時間帯を狙ったのだろう。しかし、ここ鬼ヶ島周辺には見張りがいるはず…あいつらは何をしているのだ?
「まぁ、そんなことを考えている場合ではないな…行くか。」
これでも一応跡取りなのだ。助けに行かなければ面子が潰れてしまう。
本当は全員死んでほしいところなのだが…
閉め切ってあった襖をぶち破って町に向かう。
「ったく!無駄に町まで遠いんだよ!」
そう叫びながら俺は町を目指した。
*****
町に着くとそこは火の海だった。
鬼たちは逃げ叫び、中には火だるまになったまま逃げているものもいた。
「まさかここまでとは、しかしこの短時間でこんなに燃え広がるものか?」
そう、異常なのだ。おそらく襲撃者がここに着いたのはつい先ほどだろう。なのにこの火の燃え広がり具合…何か裏があるに違いなかった。
火に近づき、触れてみる。普通の火であれば俺には火傷も被わせられない。
ジュッっと音と共に肉が焼けるような匂いがする。
「あつっ!!この火、神性を感じる…まさか鳳凰の炎か?!いや…それなら短時間でここまで火が広がったことにも納得がいく!」
鳳凰とは慈悲に溢れ、人々を癒やし魔を滅ぼす伝説の鳥だ。
しかし何故鳳凰がここに?…やつ一人だけならば父上だけでも勝ててしまう。
そんな馬鹿なことは鳳凰はしないだろう…だとすれば──
「──複数による襲撃か…!」
だがそれだけなら民にも対処できる。なのに対処できなかったということは…鬼達以上に強い者達がいるということだ。
「そんなのここは最近で聞いたことがないぞ?!」
記憶を掘り起こしていくが、どこにもそんな記憶はなかった。
「クソッ!このことは後回しだ!今は火を消すことだけに専念するとしよう!」
町の広さは城が余裕で十城建てられるほどの広さだ。
普通ならばこの広さを一人で消火するのは不可能だが…
俺達鬼には鬼術という摩訶不思議な術がある。
「『鬼術・雨鬼』!」
鬼術を唱えると、徐々に雨雲が俺の頭上に集まる。
ポツポツと雨が降り始め数秒後には土砂降りになった。
普通の雨なら、鳳凰の火は消えないのだが
雨には俺の妖力を込めてあるため、鳳凰の火はすぐに消えていった。
「…とりあえず、これでいいだろう。父上のところに向かうとするか。」
耳を澄まし、父上の場所を探ろうとするが…一向に気配がしない。
「…聞こえないな。戦っていればすぐに分かるのだが。しょうがない…『鬼術・霊鬼』。」
『霊鬼』は自分自身を霊体化し、自由の動ける鬼術の一つだ。
上空に浮上し、視線を下に向ける。
数分ほど探してみると、複数の人影と…地面に横たわっている一体の鬼がいた。
「!まさか!」
急いで下降していき、人影と鬼を視認する。
そこには…地面に伏している父上と、雨で見えない人影が立っていた。その後ろには鳳凰と一匹の大狼、そして大猿…のようなものもいた。
しかし今はそんなことは気にしている場合ではない。
「父上!大丈夫ですか?!」
俺は心の底では心配はしていないものの、表面だけは心配してるように見せる。
父上の体を揺さぶっても何の反応もなく。胸に手を当てると心臓も止まっていた。
「父上…」
哀愁に浸っていると、人間の男が冷酷な声で俺に声を掛けてくる。
「おい…貴様は何者だ。なぜ僕の目の前に姿を現した?」
そちらに視線を向けると…そこには端正な顔立ちをし、体は細いがただならぬ雰囲気を漂わせていて、刀を携えている…人間がいた。
俺は初めて見る人間に感激を覚えた。
「貴方は…人間でしょうか?」
「…おかしな質問をするものだ。当たり前だろう。」
あぁ、やはりそうだったか!
俺は涙を流し、人間に名前を聞いた。
「俺は詩鬼といいます。貴方のお名前を伺っても?」
「…僕は桃太郎だ。後ろのみんなは鳳凰と月狼、そして猿神だ。僕はこの世の妖怪を滅すために生まれてきた男だ。他のみんなはそんな僕に付き合ってもらっているのさ。…質問は終わりかな?もう殺してもいいかい?」
桃太郎と名乗った男は軽い気持ちで残虐な言葉を放つ。
…しかし俺にはまったく恐怖などなかった。むしろ憧れの人間に殺されることに感謝しそうなぐらいだ。
でも、桃太郎達に言っておきたいことがある。
「えぇ、いいですよ。…でも、俺を殺す前に…桃太郎殿には姓を、他の方には名前を与えても?」
桃太郎は姓を名乗らなかった、他のものはまず名前すらなかった。だから俺は感謝の気持ちとして姓を、名前を与えたかった。
「…いいだろう。潔く殺される貴様への慈悲だ。さっさと与えるが良い。」
「えぇ…それでは。」
「桃太郎殿には桃源という姓を…」
「鳳凰殿には鳳凰院 焔という名を…」
「月狼殿には狗神 獅狩という名を…」
「猿神殿には猿飛 神威という名を…」
桃太郎達に姓と名を与え終わる。
「さぁ、終わりました。どうぞ、俺の命を奪って下さい。」
「…よき姓と名に感謝する。」
桃太郎が刀を俺の首目掛けて振り下ろす。
ストンッといとも容易く俺の硬い首を切る。
命の灯火が消える瞬間に桃太郎に言葉を掛ける。
「桃太郎、どうか…この世の妖怪を滅してください…それでは、またいつか会えたら──
そこで俺の前世は終わった。
*****
赤ん坊の泣く声がする…俺は桃太郎に殺されたはずだ。なら何故?
その疑問はすぐに分かる…それは、俺自身が赤ん坊に転生したからだ…しかも人間の赤ん坊に!
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えちょまです。
闇隠も書けてないのにまた新しいの書いちゃった☆
人気出るといいなぁ
それじゃ
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