第6話 毒薬入手

 そもそも、数年前から続く、パンデミックのせいで、国内、いや、全世界が混乱するようになってから、日本政府の無能さが、さらに浮き彫りになった。

 あの、

「遣唐使」

 は、そんな中。

「前首相の疑惑を私が解明する」

 といって、総裁になったくせに蓋を開けていれば、解明どころが、その前首相に気を遣うかのような組閣人事を行い、国民を裏切った。それでも、バカな国民は、

「最初だから、しょうがない」

 と言っていたが、実際には、そんな生易しいものではなかったのだ。

 今度はそのうちに、外国で戦争というものが勃発すると、片方の国を勝手に、

「侵略者呼ばわり」

 して、他の国に則って、右に倣えで、経済制裁までする始末だ。

 そもそも、他の国は、

「侵略国」

 と、敵対関係にあるのだから、それは当然のことである。

 しかし、日本の場合は、憲法で、

「専守防衛」

 しか認められていない。

 ということは、

「攻め込まれると、どうしようもない」

 ということになる。

 いくら、相手が攻めてくるということが分かっても、先制攻撃はできないのだった。

 そんな国が、特定の国と敵対関係になったらどうなんだろう?

「我が国は、平和憲法があって、先制攻撃できないから、攻撃しないでくれ」

 などということが言えるわけもない。

 それこそ、

「頭の中が、お花畑のようだ」

 といわれても仕方のないことであろう。

 それを思うと。最低でも、

「絶対中立:

 が当たり前なのだ。

 それを今頃になって、

「防衛費拡大」

 などと、

「日本は社会情勢で危ないところにいる」

 といって、

「そんな国なのに、さらに敵を増やしたのは、どこのどいつだ」

 と言いたくなってくる。

 今年になると、さらに、攻められている国に対して、経済支援を行うようになった。

 人道的には、

「いいことをした」

 というのだろうが、そのお金は、

「政治家のポケットマネーではなく、国家予算」

 から払われているのだ。

 子供でも分かる、国民一人一人が払っている、

「血税」

 というものである。

 しかもである。

「数年前からのパンデミックによって、経済は冷え込んでしまい、今すぐにでも、支援金がほしいと思っている人がたくさんいるのに、自国の国民の窮地を放っておいて、海外に金をやるとはどういうことだ?」

 ということだ。

 つまりは、

「苦しんでいる人の首をさらに絞める」

 という行為であり、さらには、

「傷口に塩を塗る行為」

 といってもいいのではないだろうか?

 そもそも、支援する相手国にも政府があるわけで、そちらはそちらでやらせればいいのだ。

 そりゃあ、お金が有り余って、

「どう使っていいのか分からない」

 というほどの国であれば、

「人道支援のために、お金を使うというのは、素晴らしい政治家だ」

 ということになるだろう。

 しかし、そうではなく、国民を見殺しにして、他国を救おうという、まるで、

「売国奴」

 のような男が、一国のソーリだというのだから、

「この国も、来るところまできてしまったか?

 ということになるに違いない。

 それを思うと、

「政府なんて、なくてもいいんじゃないか?」

 という人まで出てくるのではないかと思えるほどだった。

 とにかく、今の時代は、

「税金を高く取られて、国民生活は苦しい。しかも、国は借金だらけ」

 という状態なのだ。

「お金は一体どこに消えたというのか?」

 と、小学生にでも解けるはずの算数が、完全に、

「解なし」

 の状態になっているのである。

 まるで、

「どこかに捨てられているのではないか?」

 と思えるような状態に、誰も回答できる人がいない。

 それだけ、金の管理が政府にはできていないということか?

「できるわけないじゃないか。それができるくらいなら、年金を消したりなんかするはずないだろう」

 ということになる。

 ここまでくれば、

「年金は消したわけではなく、どっかの誰かが一人、あるいは、特権階級の連中ばかりで、貪っているのではないか?」

 という疑念も湧いてくる。

「そんなバカなことはないだろう?」

 と前だったら、言えたかも知れないが、今は、

「そんなバカなこともあるかも知れない」

 と思えるほどになったのだ。

 それを考えると。

「我が国というのは、政治家が魑魅魍魎のようで、きっと違う生き物なのではないか?」

 ということさえ思えてくるくらいであった。

「自○党の、キ○ダソーリ。早く辞めてください」

 という声が聞こえてきそうだ。

 支持率も30%を割り込んでいるというではないか。

 普通だったら、退陣問題が目の前に来ているというのに、そこまで盛り上がっていない。なぜなのだろう?

 増税問題で、さらに支持率もさがり、下手をすれば、20%も割り込む気配になってきている。

 それなのに、あのソーリの強気派どこから来ているというのか?

 確かに、大きな選挙は近々あるわけでもないし、ソーリの任期も、まだ3年近くある。そういう意味では、安泰のはずで、しかも、

「何かをするなら今でしょ」

 という感じである。

 だから、強気なのであろうが、それよりも、見方によっては、

「やけくそ」

 という見方もできる。

 今まで、順風満帆に来たのかどうかは分からないが、少なくとも、国のトップに上り詰めたのだから、

「もう、これで満足だ」

 とでも思っているのかも知れない。

「ここから先、この国がどうなっても、どうでもいい」

 というくらいにしか思っていないのであれば。それに巻き込まれるのは、国民であった。

「一億二千万」

 という国民全員を敵に回しているという意識は、あのソーリにはないのだろう。

 そう思うと、今年になって、いろいろあったことに対して、

「検討します」

 と、

「遣唐使」

 を貫いてきたのも、逆に簡単に決めてはいけない、

「国葬問題」

 であったり、

「増税問題」

 などを、ソーリという看板にものを言わせて、強行突破しようというのだから、

「わがままだ」

 といわれてもいいだろう。

 昔だったら、わがままな子は。親でなくとも叱る大人がいたのに、今は実の親でも叱ることはおろか、言って聞かせるということすらしようとしない。

「大人に、それだけの技量がない」

 ということなのだろう。

 ソーリという、皇室以外のトップの権力者にまで上り詰めると、

「どんなわがままでも通る」

 と思うのだろうか?

 もしそうだとすれば、自分がソーリの側近だった時、何を見てきたというのか、

「いや、側近として見てきた歴代のソーリが、すでにろくでもない連中だった」

 というだけのことだったに違いない。

 それを思うと、

「今のソーリがああなったのも、しょうがないのか?」

 といえるのかも知れないが、

「国民という当事者が、しょうがないなどという言葉でごまかしていいのだろうか? そんなことをしてきたから、今のとんでもない政府ができたのであって、この流れで、いい方に向くなどありえない。亡国の一途をたどるに違いない」

 としかいえないだろう。

 それを思うと、

「国家や政府って、誰のためにあるんだろう?」

 という、単純なはずのことが、一番分からないことになってしまうのではないだろうか?

 そんな世の中の理不尽さを、美亜は知るわけもないはずであった。しかし、そんな美亜が、

「服毒自殺をした」

 ということの衝撃が走ったのは、、美亜が退院してから、一カ月くらい経ってからのことだった。

 家の中でぐったりしている姿を見つけた母親が、急いで救急車を呼んだ。一刻を争う事態だったので、当然、救急病院に搬送されることになった。

 救急病院は、自宅から、救急車で15分のところにあり、急いで解毒治療が行われた。幸いにも、

「致死量にまで至っていなかった」

 ということと、

「発見が比較的早かった」

 ということ、さらには、

「毒物が早く分かり、幸いにも血清がすぐに届けられた」

 という偶然がしっかりと重なり、一命をとりとめたのだった。

 この救急病院の今回執刀した医者は、大学時代に、若先生とは、

「昵懇の仲」

 だったのだ。

 同じサークル。二人はサッカー部に所属して、一緒に汗を掻いた仲間だった。

 今回の患者は、しばらくすると意識を取り戻すであろうが、正直、気になっていた。確かに助けることは助けたのだが、年齢的にまだ、15歳くらいの女の子である。その子が何を思って自殺などを試みることになったのか。未遂で終わったからよかったものの、その心の奥底にあるものが何であるかを分かってあげないと、また同じことを繰り返すかも知れないし、下手をすると、助けたことが、却って彼女を苦しめることになるかも知れない。

 と考えたのだ。

 そう思うと、

「意識を取り戻して、身体が普通に戻れば、それでいいというのか?」

 ということが気になってしょうがなかったのだ。

「救急病院の医者が、そんなことをいちいち気にしていては、身が持たない」

 といわれ、

「確かにその通りだ」

 と言えなくもないのだが、

「本当に、それでいいのだろうか?」

 と思えてならないのだった。

 ただ、普段であれば、後ろ髪をひかれる思いで、気にすることをやめなければいけない状態だっただろう。しかし、彼女の行きつけの病院を見て、それが、

「イシダ病院」

 ということが分かると、いてもたってもいられなかったのだ。

「以前一緒に汗を流した仲間だ」

 と思ったその時、気が付けば、イシダ病院に連絡を取っていた。

 若先生が電話に出ると、

「梶原先生じゃないですか。久しぶりだね」

 といって、懐かしい声が帰ってきた。

 さすが、体育会系の部活だっただけに、部員と話をする時は、必要以上に声が大きくなる。そうするように訓練されたのだった。

 体育会系というところは、昔からの伝統を重んじるところなので、声のトーンが大きいのは当たり前のことであった。梶原先生などは、受話器に耳を当てなくても、十分に聞こえる声をしていた。

 声質が、そもそも、太いのである。

 少々大きな声を出しても、その声がかすれるというようなことはなかったのだ。

 最初こそ、懐かしさから大きな声で話していた梶原先生であったが、本題に入ると、急に声のトーンが一気に下がった。

 それだけで、事の重大さというものが分かってくる気がしたので、若先生の方も、身構えていたのである。

「実は、君のところをかかりつけとしている、鈴村美亜という中学生の女の子のことなのだが」

 と言いだした。

 その時は、まだ、

「美亜が自殺未遂した」

 という話は、伝わっていなかった。

 きっと病院側が緘口令を敷いていたのかも知れないが、それはあくまでも、マスゴミに対してだけであり、

「マスゴミ関係に漏れそうな場合は、他言無言で願いたい

 ということだったのだ。

 この感じは、

「いずれは、発表することになるかも知れないが、今は静かにしておこう」

 ということで、彼女のことを気遣ったのと、それにより、病院のまわりにマスゴミが張り付いてきたり、さらには、

「世間で余計なウワサになって、誹謗中傷などが起きないとも限らない」

 ということが考えられたのだろう。

 どのすべても、問題としては大変であるが、特に最後は問題であった。

 だが、自殺を試みたということで、警察に連絡しないわけにはいかず、そこは連絡を取ったのだが、

「彼女にお話を聴けますか?」

 と刑事が言ってきたので、

「少し待ってください。まだ、体力がまったく回復してないので、面会謝絶です」

 というと、

「じゃあ、いつ頃なら大丈夫ですか?」

 と刑事が聴くので、

「今は何とも言えません。意識や体力の復活には数日かかりますし、個人差もありますからね。でも、少なくとも、一週間くらいは無理だと思います」

 ということだったので、

「分かりました。じゃあ、彼女に対しての面会は、先生のご判断に任せましょう。では、我々としては、病院側が発表できる内容だけでも聞かしていただきたい」

 ということで、救急病院側も、警察に協力をするという形になった。

 聞かれたことは、彼女の個人情報についてで、つまりは、氏名、年齢、学校などが主であり、そして一番肝心のこととして、自殺の元となった毒物であった。

 警察が知りたかったのは、まず、

「入手が簡単なことなのかどうか。特に中学生の女の子が毒薬など、手に入るということだけでも信じられない。衝撃的なことなのだ」

 ということである。

 そして、そのことが、病院に緘口令を敷かせ、マスゴミシャットアウトした一番の原因だということは警察も重々承知していた。

 病院側から、

「この件は、彼女のプライバシーもありますので、なるべく内密に、特にマスコミの連中に嗅ぎつかれないようにしていただきたい」

 といわれたが、警察の方も、

「そんなこと、百も承知です」

 と思ったが、さすがに口にはせずに、ただ、頷いているだけだった。

 病院側が発表した毒物というのが、専門用語でも、難しい名前だったので、手帳にメモする時も何度も聞き直したくらいだった。

 ただ、問題は、そこではない。名前などある意味どうでもいいのだ、問題は、

「その薬は、中学生でも手に入れることができるようなものなんですか? まさか、学校の理科室や、研究室に、普通に置いていたりはしませんよね?」

 といわれ、

「それはもちろんです。学校で手に入るということは、まずありえません」

 と医者がいうと、

「じゃあ、どこなら手に入るんですか?」

 と刑事が突っ込んで聴いてくると、医者も少したじろいだが、

「薬品というのは、結構両極端だったりするんです。医薬品として使われるものが、劇薬だったり、爆弾の原料になったりする。特に、ピクリン酸などは、医薬品ですが、強力な爆弾にもなるんです。TNT爆弾と呼ばれるものが、そうであるようにですね。もっと分かりやすいのは、ニトログリセリンでしょう。あれは、ちょっとした振動で大爆発を起こすものですが、ご存じの通り、心臓病の特効薬なんですよ。要するに、使いようによっては、爆弾となるものが、人間の体内では、薬品として立派に機能するんです。それだけ人間の身体は、ある意味丈夫なのかも知れないですね」

 というのだった。

「なるほど、じゃあ、それだけ人間の身体というのは、丈夫なんですかね?」

 といわれ、

「ですが、年齢とともに衰えもします。生きるということは、それだけでも、肉体的には大変なことだといえるんはないでしょうか?」

 と医者は言った。

「じゃあ、この薬品は、どこで手に入るんですか?」

 といわれると、

「病院にはあります。時には他の薬と調合することで、立派な医薬品になりますからね。ただ、毒物というのは、意外と、身近にはあるんですよ。手に入れることの難しさを考えなければ、トリカブトのようなもの、ストリキニーネのような猛毒といわれるものは、田舎に普通に生息していますからね。さらによく、探偵小説などで使われる青酸カリなどは、メッキ工場で、普通に使われているという。それよりも何よりも観賞用の植物にも、毒性の含まれているものが結構あって、例えば、スズランなどには、コンパラトキシンなる毒物が含まれていて、生けておいたその水を飲んでも中毒症状を起こします。さらには、野生のキノコなども恐ろしいですよね、しかも、食用と非常によく似たものもあるので、素人はキノコ狩りなど、危なくて仕方がないですよ。フグの毒もそうですよね。テトロドトキシンという毒が含まれていますからね。至るところに、毒物は生息しているということになる。ただそれ以上に、もっと怖いのは、同じものでも、人によって、普通の食物でしかないものが、人によっては。毒になるものもある。それが、アレルギー症状ですよね? アナフィラキシーショックといって、アレルギーがショック状態を引き起こし、死に至らしめる。しかも、アレルギー物質はいろいろなものにあって、食物だけではなく、ゴムに対してであったりする、ラテックスアレルギーというのもありますからね。スズメバチに刺されるというのも同じです。二度目に刺された時、ショック状態が起きてしまい、そのまま死に至るというものですね」

 と、先生は語っていた。

「じゃあ、どこの病院にもあるものなんですか?」

 と聞かれ、

「そうですね、普通にあると思います。うちにも当然あるので、お見せしましょう」

 と医者は言った。

「それは、もちろん、厳重な管理がしてあるんでしょうね?」

 と聞かれて

「ええ、もちろん、使用する際も、しっかり量を計測し、どれだけ、いつ誰が、どのような治療で誰に使用したということをしっかりと記載し、それを記録として残すことは、薬事法で決められていますからね」

 というではないか。

 なるほど、昔HIVなどで、

「薬害エイズ」

 という問題が出てきた時、薬事法が厳しくなり、昔とは、かなり様相が変わってきたことは周知のことである。

 病院内部では、いかに薬品、いや、薬品だけではなく、医療器具に至るまで、その処分も問題となり、いちいち報告義務が発生したりしているのであった。

 今では信じられないことであるが、

「昔は注射針や注射器などは、熱湯消毒で煮沸することで、再利用していた時期があったんだよ」

 というのである。

 今は、注射に一回使用すれば、その時点で廃棄が当たり前のことであるが、やはり、問題になったのは、かつての、

「薬害エイズ問題」

 からであろう。

 エイズというものが流行りだしたのは、今まら40年くらい前であろうか?

「致死率が圧倒的に高い病気」

 ということで恐れられた。

 下手をすると、

「罹ればほぼ死ぬ」

 といわれていた時代であり、さらに、

「同性愛者などに多い」

 というウワサが流れたことで、誹謗中傷の嵐が巻き起こったのである。

 ただでさえ、未知のウイルスが流行れば、その影響ははかり知れないものがある。それを思えば、

「エイズに罹ったお前は変態だ」

 などというレッテルが貼られるようなものだった。

 死の恐怖を味わいながら、さらに、周りからの誹謗中傷、これほど生きていることが地獄だと思えたことであろうか。

 そもそも、エイズというのは、

「体液から感染する」

 ということが分かったことで、セックスも危険視されたのだ。

 それでも、

「ゴムをつけていれば大丈夫」

 ということで、かなりそのあたりの問題は解決されたが、それだけではすまなかったといってもいいだろう。

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