第8話 お腹の中からアカンベー

「一度ならず二度までもフィアンセを世界の果てまで吹き飛ばすような輩が、結婚後DVに走らないわけねェだろうよ」


虹鱒太郎親子が長い年月をかけて、ようやく探し当てたマリオジッチは、そのヘビーな言葉をここまで軽く口に出せるのかというくらい軽く口にした。


彼女は砂漠の小さな教会で、ウェディングドレスを身にまとい、新たなフィアンセと永遠の愛を誓う口づけをかわす直前のことだった。


親子二人、立ち尽くすことしかできず、世界中からあかんべーされてる気分がした👅

マリオジッチの膨らんだ腹の中の、新たな命までもが虹鱒太郎親子をあざ笑っているようだった。


「その通りだよカーチャン、俺は腹ん中にいたけど、ヘソの穴から外を覗いて、あのボンクラ親子がカカシみたいに立ち尽くしてるのを見てケタケタ笑ったもんよ」


当時、腹の中にいた子は十年後、母親が結婚式の思い出を語ったときに、嘘などつくはずのないストレートな瞳の輝きとともにそう答えた。


「おお、聡明なる我が子よ。ならお前はあの当時、虹鱒太郎が吐いた汚らわしい言葉も耳にしてしまったのだね」

母は聡明かつ従順な、そして現在は四つん這いで室内を這い回る我が子の背に乗りながら優しく言葉をつむいだ。母なる権威への服従の精神は、ティーンエイジャー前期までのうちに、時間の許す限り徹底的に叩き込まねばならない。


「イエア」息子は母のふくよかな尻の感触を背中で堪能している本心を隠して答えた。もしバレたらどんな折檻が待ち受けてることやら(ドキドキ)。


「母君に向かって吐いたいまわしき言葉、覚えております。『腹の子もろとも呪ってやる』。・・・まったくヘソが茶を沸かしますよ。私たち親子が一級呪術師である事実すら知らなかったのでしょうね、お母様」


「まったく、呪ってやるなんて単なる出まかせだったのね。一級呪術師たる私からすれば、てっきりあいつも呪術師だったのか、なんて勘ぐっちゃったけど・・・あら坊や? もうくたびれちゃったの? だらしないわねえ、急に床に腹這いになっちゃって。私が重たいとでも言いたいの? 坊や? どうしたの? どうして泡をふいてるの? どうして耳から鼻から血を垂らしているの? どうして全身を痙攣させているの? どうして、どうして・・・一級呪術・尻穴ハバネロ注入を受けているの!!??」


そう、虹鱒太郎親子の呪いが遅ればせながら息子にだけ効いてきたのである。


愛する息子は一命をとりとめたものの、常にケツ穴にハバネロを突っ込まれたも同然の状態に陥り、生きる=拷問みたいな状態に陥ってしまった。


これを治すには虹鱒太郎親子を倒すか、伝説の登戸のスケベ椅子職人・ヘシメンテ=プカイツカイに会うしかない。


母は愛する息子を助けるために立ち上がった。















  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

デベソ山脈とアゴワレ海峡 富山屋 @toyamaishikawa

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る