第7話 焼き鳥といえば塩


聞き慣れた羽音が近づいてきた。

鳥さんが新鮮なザクロをマリオジッチに届けにきてくれた。


「おお、お前。今日も果実を届けに来てくれたんだね。ありがとうよ。でもお前、私はもう大丈夫だよ。お別れのときがきたんだ。これまでの感謝はしてもしきれないよ。生涯、お前のことは忘れ・・・」


と、鳥が撃ち落とされた。虹鱒太郎が下からパチンコで攻撃したのだ。


わめき怒りちらすマリオジッチを尻目に、虹鱒太郎はその場で鳥をさばき、火を起こして焼いて食べてしまった。戸愚呂兄の雪菜に対する仕打ちと同程度に鬼畜の所業といえよう。


マリオジッチは、はじめ虹鱒太郎に怒り狂っていたのは事実だが、焼かれた鳥肉の香りが鼻腔まで立ちのぼってくると、食欲を刺激されたのもまたひとつの事実であった。恩人ならぬ恩鳥への義理から怒りの演技を続けはしたものの、途中から芯が抜けて張り合いのないものへと変わっていた。


だが怒りの演技を長く続ける気遣いはなかった。なぜならブリザードマンが再び感情を爆発させてブリザードを巻き起こし、そのせいでマリオジッチは再び数万キロの彼方へ吹き飛ばされていたからである。


「あちゃー、またやっちまったよ」

ブリザードマンはマリオジッチがいなくなったおかげで安心して焼き鳥にパクつきながらボヤいた。


「短期は損気だぞ、息子」虹鱒太郎も鳥をムシャムシャやりながら答える。「それより塩っけが足りないな」


虹鱒太郎は焚き火でかいた額の汗をぬぐうと、それを鳥肉に垂らして焼いて食べた。「うまい」

「うへーきたね」と息子。だがもう心底怒ることはなかった。それは諦めともいえた。長旅と先ほどの件で、父親がどういう人間なのか、ようやく分かってきたのである。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る