何処だろう。

「刑事さんには悪いですけど、平森くんの場所なら、こちらが知りたいぐらいですよ。」

 そういって頭をポリポリかくと残り業務がつまったパソコンに視線を落とす、目の下のくまが職員の苦労を物語っていた。


「あー、先輩なら…そういや全然大学来てないっすね。てか、俺より仲良い人に聞いた方が良いっすよ。ほら、あいつとか。」

 そういって手招きすると気づいた相手がこちらにやってくる。

「うーっす、どしたん呼んで。」

 遠目では分からなかったが、近くで見ると特殊詐欺に手をだしてそうなチンピラその4みたいな風貌の男だった。

「いや、なんか平森先輩について刑事さんが聞きたいって。」

「刑事!?え、先輩が何かしたんすか。」

 何かあるのはお前の見た目だろう。しかし、慕われているのだな、“主にこんな連中に”。若干の偏見が混じるが始は表情はビジネススマイルで隠し対応する。

「いえ、親御さんから最近家に帰って来ないとの通報がありましてね。それで居場所を知っていたらと思い、お話を伺わさせていただいているんです。」

「なんだそんな事か、多分ですけど友達の家を転々としてるだけですよ。」

「ちなみに、その友達って誰だかわかりますかね。」

「いや、先輩は顔広いから、後輩の俺らでも全然知らない友達とかもいますし、そこまでは知らないっす。」

「そうなんですね。」

「きっと先輩も精神的にまいってんすよ。」

「というと?」

「先輩が友達の彼女を寝取ったって噂がながられてんすよ。本当は寝取られた被害者側なのに、ひどくないすか。」

 柄には似合わない優しさがあるらしく、慕っている先輩の名誉を守るために周りに気をつけてひそひそと話す。実は根は優しいのかもしれない。

「確かにひどいですね。あっ、ちょっと時間が、お時間とっていただきありがとうございました。」

 腕時計を見て、そそくさと退散する口実をつくる。いい話が聞けたからだ。

「いや、全然大丈夫すよ。じゃ行こうぜ。」

「てか、あの刑事、態度悪くね。」

 まだ本人に聞こえる距離なのに愚痴をこぼすとは、会話に入れなかったからって恨みすぎだろ。最初に話しかけた学生の育ちの悪さを知るために始は改めて後ろを振り返る。

 やけに太陽光を反射する金髪の頭は「大学は学びたくて来たわけではない。」と告げているようでむしりとってやりたい。もちろんチャラチャラしているからではなく、反射した光がチカチカと眩しいからだ。そういう事にしておく。


「めぼしい情報なしっすね。」

 助手席に腰をかけた里山は両手を頭の後ろにやりながら、魂が抜けた人形の様につぶやく。

「俺も良い事を聞いたが居場所には繋がらない、もしかすると、平森息子が共犯でバレるのをおそれて大学を休んでいるかも知れんだろ。」

「裕福な家のお坊っちゃんですよ、常日頃からサボり癖があんのかも。」

 里山の言うことは最もだが、それを言っちゃあおしまいなんだよ。と権田始は感じるばかりであった。

「サボり癖があったとしたらゲーセンすかね…。」

「さあな、お坊っちゃんの趣味なんか、、あ。」

 始は思い出しメモ帳のページをペラペラとめくる。それと同時に少し前のことすら忘れていた自分の不甲斐なさを感じた。

「どうかしました。先輩。」

「これだよ、これ。」

 そう言うと始は人類未解読の言語または落書きともとれる本人以外には解読不能のなぐり書きされた文字とその被害にあった哀れなメモ帳をみせる。

「んー…、ベ…フん"すかね。」

 里山はかなりの苦戦をした後、苦笑いしながら恐る恐る答える。

「なにいってんだ、これ『バンド』だぞ。」

 改めてみせられたメモ帳には明らかに繋がって『べ』と化した『バ』らしきものと、これまた短い点が繋がり『フ』へと変化した『ン』、そして極めつけは無理に一筆書きで書かれたために本来は無かった曲線が増えて『ん』に謎の濁点がついたものに変わり果てた『ド』があった。お世辞にもキレイと言えない字については分かったが、なぜ『バンド』が出てくるのか新たな謎が里山の頭を惑星とした衛星の様にぐるぐると回る。

「なんでバンド何すか。」

「さっき、平森…旦那さんの方な、で、その平森さんがずっと息子の愚痴言ってたじゃん。」

「あぁ、なんか言ってましたね。耳に通ってるはずなんすけど、頭には通ってないみたいで、全然思い出せないっす。」

「俺もだ。だが、メモ帳は違う。さっきの俺はメモをしてたんだよ。」

「なるほど、それでバンドと…。」

「そうだ。息子はバンドに夢中らしいからな、ここらでバンドが集まると行ったらどこだ。」

「カラオケ…、バンドスタジオ…、ライブハウス…とかですかね。」

「しらみ潰しかぁ、じゃあ、先にライブハウスだな、平森のいるバンドについて知っているかも知れん。」

「了解っす。」

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