ホントウの父親
「情報提供100万円ね、犯罪者にそんな価値が本当にあんのかね。」
『ピロピロピロ…』
どこか聞いたことのあるような入店時の音が店に流れる。
「いらっしゃいませ、お客様お一人でしょうか。」
「いえ、待ち合わせで…。」
昼時で他の業務に追われているのに新たに入店する客に対応が雑にならないのは、改めて流石と貝浜は感じながら目的の席へと向かう。
「よぉ、坊。」
「やめてよおじさん、いつの呼び名で呼んでんの。」
他愛の無い挨拶をかわすと、店員の持ってきたお冷やを一口ほど口に運ぶ。
「でも、どうしたんだよ。別にファミレスじゃなくても俺と話せるだろ。」
「母さんには聞かれたく無いし、俺はファミレスの周りがガヤガヤ喋ってる雰囲気が好きなの。」
「ふーん。そんなに隠したい事か、確かに木を隠すなら森の中、聞かれたくない話を隠すなら他の人が話す中って事か。」
「そんなんじゃないよ、言い方悪いなぁ。」
貝浜が茶化すと即座に訂正される。
「それで話したい事って、なんだ。」
「実は最近、彼女に浮気されてさ、情けないよな。」
さきほどの顔とは一転、深刻そうな顔になり男は話し出す。
「情けなくないだろ、だってお前は被害者だぞ。その…浮気相手は分かってんのか。」
「うん、分かってる。同じバンドメンバーだったよ、そんなに近くで浮気されてんのにさ、俺気付かなかっただよ。」
「そんな…、そいつらからの謝罪はきたのか。」
「いや、きてないよ。けど俺が大人にならなきゃだし。」
「そりゃおかしいだろ、お前が泣き寝入りしなきゃいけない理由なんてないんだぞ。」
非情な周りのせいで我が子同然の人物が辛い羽目にあっている現状は貝浜の怒りのボルテージをあげるのは必然だった。まさに火に油を注ぐであり、是非広辞苑の例として使ってほしいものだ。
「落ち着いてよ、おじさん。俺が本当に相談したいことは別だから。」
青年は貝浜を落ち着かせ、本題へと切り出す。
「理由は分かってると思うけど、今ちょっと傷心しててさ、どうやったら立ち直れるかなって、おじさん色々詳しいし力借りたいなって思ったんだけど、ごめんこんなことに巻き込んで。」
「全然良いよ、頼りにしろよ。それになお前は顔もカッコいいし、性格も良い、そんな女より十倍、いや百倍良い奴がきっと現れるよ。」
「ありがとう、おじさん。」
「もっと元気だせ、俺が言ったろ。きっと良い奴が現れるって、俺が保証する。だって、こんなに小さい時からみてたからな。」
そう言って貝浜は人差し指と親指で潰れたCをつくる。
「本当にありがとうね、おじさん。元気でたよ、てか、俺らファミレス来たのに何も食ってないじゃん。なんか食お。」
「そうだな。」
そう言って二人はそれぞれのメニュー表を開く。
「おじさん。」
「なんだ、急に。」
「俺、おじさんの事、本当の父親だと思ってるから。」
「嬉しいねぇ。」
メニュー表から視線を外さすに貝浜は答える。
「けど、俺は使用人だ。坊の親父はあの人だろ。」
「血縁と戸籍上はね、俺からしたら、本当の父親はおじさんだよ。」
貝浜が視線をあげると、真剣な眼差しの青年と目が合う。その真剣さに青年の発言に対し信頼を抱き、本当に父親だと思ってくれている事を感じる。
貝浜は顔の表情を緩めて、微笑む。
「ありがとうな、坊。」
「その呼び名やめて。」
「良いじゃねえか、父親なら今日ぐらい。」
「今日だけね。」
再び二人はメニュー表に視線を落とす。
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