大丈夫ですさん
「ねぇ、信ちゃんはさぁ、『大丈夫ですさん』って知ってる?」
すべり台をちゃんと
「なにそれ、『大丈夫ですさん』って何。」
淡白だが、聞き手に専念する立場としては百点の回答を
「『大丈夫ですさん』ってのはね、夜になると何処かに現れてうずくまってるの。」
「きっと体調が悪いんだけだよ、その人。」
ただの体調不良の人でさえ、噂されるのかと思い、信吾はおもわず口を挟む。
「違うよ、まだ続きがあるの。」
歩美は折られた話の腰を戻すと、さらに続ける。
「普通さ、人がうずくまってたら声かけるでしょ。「大丈夫ですか。」って、でね、『大丈夫ですさん』に「大丈夫ですか。」って声をかけると、「大丈夫です。」って返ってくるんだけど、たまに「大丈夫じゃないです。」って人を襲うの。」
グダグダだが、ホラー耐性のない小二からしたら、目の前の女子が稲川淳二にすら見える。
「…てる?聞いてる?」
「あぁ、うん。聞いてるよ、その襲われた人はどうなるの。」
「分からない、でもいなくなっちゃうの。」
歩美は信吾が内心ビビっているのを見透かしたように語る。
『まもなく、四時三十分です。よい子のみんなはお家へ帰りましょう。』
市からの爆音帰宅誘導アナウンスが流れる。このタイミングで鳴るなんて心臓に悪い。
「あぁ、もうチャイムの時間か。じゃあね、信ちゃん。」
「じゃあね、ばいばい、また明日。」
歩美の自転車を見送った後、信吾も胸の高さで振っていた手を自転車のハンドルへと移動させ、そのまま帰路につく。
家に着くと、待ってましたと言わんばかりの顔で待っている兄に買い物を押し付けられる。
「買い物ぐらい自分で行けよ。」
「いやだ、絶対に嫌だ。」
「何でだよ、あっ、もしかして自転車のれないから、俺に任せてんの。」
「い、いや別に、単純に買い物とかダルいだけだよ…。」
兄の顔がみるみると赤くなり、図星をつかれたから赤いのか、窓から差す夕日に照らされているから赤いのか分からない程であった。
「まぁ、いいよ。そういうことなら、武士の情けって事でね。」
「おぉ、そうか。やってくれんのかありがとな。」
兄は目的を達成したからか、逃げるように奥の部屋へと入り込む。あの反応から見るに僕が昨日の時代劇で使われたセリフを引用したことは誰も気づいていないらしい。
面倒だが、自転車のこげない星から来た兄のせいで夕飯がなくなるのは困るため、渋々、信吾は自転車を走らせる。
兄とは同じ小学校に通っており、通っている人間から言わせてもらうと、あの小学校で自転車を乗ることができるというのは、当たり前であり、その中に乗れませんなんて言ってしまえば、乗れることを証明するまで、トイレで大を行っただけなのに、嫌なあだ名で呼ばれる辱しめ、通称『ウンコマン』と同格になるだろう。そして、それを兄は危惧しているのだろう。
信吾は次からお金でも徴収しようかなど、ゲスいあの手この手を考えながら、スーパーへ向かう。買い物メモからするに、今日は肉じゃがらしい。
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