大丈夫だよさん

「アウディ、ベンツ、ベンツ、フォルクスワーゲン…。姉ちゃんみてみて、高い車ばっかだ。」

賢二けんじ、あんまジロジロ見ないで、『何だろうあの子』ってみられちゃうでしょ。」

 姉は少し抑えた声量で周りを見渡しながら賢二に注意する。

「そうだよ賢兄、よくないよ。」

 姉を盾に二つ下の弟は言う。その姿はまさしく、虎の威を借る狐そのものだった。

「なんだよ、ふたりして俺は別に盗んでもなきゃ、傷つけてもないのに。別にいいよ、こんな車いくらでも買えるし。」

「そうね、高級車が何台も買えるぐらい、稼げるといいわね。」

 賢二の放った言葉を戯言の様に扱うが賢二の顔は至って真剣で冗談ではないと表情で語っているようだった。

「本当だぞ、姉ちゃん知らないの。『大丈夫だよさん』ってのがいて助けると金をくれるんだよ。」

 賢二は『大丈夫だよさん』について、あたかもビックドリームの様に語るが、言ってしまえば知らない人からお金を貰うというとんでもなく危険なことをしている。だいたい本当に貰ったのか、本当にそんな人がいるのか、それすらも謎で、カツアゲにあった人が相手に金銭を渡すところを近所の子供が都合よく解釈しただけかもしれないし、ただの噂かもしれないのだ。

「それ危ないでしょ、だって知らない人だよ。それに本当に『大…丈夫だよさん?』がいるかさえ分からないじゃない。もし本当にいてもそんな人には近づかない、いいね。」

 姉は両隣にいる好奇心の塊に釘を刺すが返ってきた答えは意外なものだった。

「危なくないよ。僕会ったけど、普通の良い人だったよ。」

 ノーマークだった方の弟から衝撃の一言、まさにきつねにつままれたと言っていいだろう。

 数秒の間、ポカンとした頭を正気に戻し、思い出したかの様に下の弟を問いつめる。

「はぁ!?あんた、その人に会ったの?本当に何かされてないよね、あんたは大丈夫なの。」

「大丈夫だよ。」

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