解散

 子供の時から現在に至るまで音楽が好きである。いつしか音楽は私の夢になり、今はギリギリだがバイトをしないくてもいいくらいにはバンドで稼げている。

 今もだが、好きなバンドが解散するのは辛かった。だから私がバンドを組んだら絶対解散しない様なバンドにするつもりだった。しかし、新しいメンバーの加入という壁にぶち当たった今、目の前で遼太りょうた博人ひろとが音楽性の違いを通り越して大声で互いを罵りあっている状況を見るにもう解散しか選択肢はないのかも知れない。

「だいたい、お前の事は昔から気に食わなかったんだ。俺らのバンドが人気が出始めた頃に加入しただけのお前がな。俺らが努力に努力を重ねた結晶のバンドに胡座あぐらをかくだけ、新しいメンバーを入れてもどうせそうなる、お前みたいにな。」

「俺がバンドに入ってからは前より演奏技術が上がったし、俺の加入はお前を含め全員賛成だったろうが。いつまで昔話に語ってんだよ。石頭が、それともなに、自分がリーダーってだけで王様気取りかよ。マジでそれはしょうもないよ。」

「あ、あのぉ…」

「マジでごめんね。あずさちゃん。二人ともやめなよ、ホントに。」

「黙ってろ有希ゆき。これはこいつと俺の問題だ。」 

「そうやって意地を張るなよ。博人、お前がそんなんだから綾花あやかが俺に乗り替えたんだろ。」

「なんだと、おい。もういっぺん言ってみろ。」

 綾花はバンドメンバーの一人で博人の彼女だった。しかし、最近になって遼太が綾花との性行為の一部始終を記録した動画を後輩に見せびらかし、その情報が博人の耳に届き、一気にバンド内の空気は険悪になり、博人は遼太と同じ新メンバーという枠の梓の加入に反対の色の示し、現在揉めている。

 この話し合いに綾花がいるともっと拗れると感じたため離席させているが、綾花がいない現在ですら、博人から拳が飛んできそうで本人がいたらどうなっていたことか、考えたくもない。

 綾花を寝取った発言をする遼太。今にも暴れそうな博人。双方共に怒りのボルテージが高まり過ぎて、いつ殴りかかってもおかしくはない。私は物理的に二人の間に挟まり、茹で蛸と化した二人を人間に戻そうとしたが、時すでに遅し、博人は遼太に殴りかかろうとしている。

「おい、やめろ。さすがに暴力は見過ごせない、今日は解散だ。」

 静観を決め込んでいた優也ゆうやが口を開く、名前の通りの優也は滅多に怒鳴らないし、怒らない。そんな人物が怒鳴った事に、さすがの二人も冷静さを少し取り戻す。

 バンドスタジオとは思えない程の静寂が数秒続くと博人はバンドスタジオを後にした。遼太は博人と距離をとるためか数十秒の間をおいてからスタジオを後にする。

「どうしようか、あの二人。」

「と…りあえず、私らだけでも自己紹介する?」

「じゃあ、あそこのファミレス行こう。それで良い?梓ちゃん。」

「はい…全然大丈夫です。」

 残された三人の頭には二人の事ばかりであった。

「いらっしゃいませ。お客様何名様でしょうか。」

「三人です。」

「では、奥のテーブル席をご利用ください。」

「ドリンクバーとポテトでいい?」

 席に着くと優也は話し出す。正直何でも良いだなんて言えない。

「すみませーん。」

「はーい、ご注文は?」

「ドリンクバーが3つとフライドポテトを1つお願いします。」

「承知しました。ドリンクバーはあちらとなっております。是非ごゆっくりどうぞ。」

 三人全員が死相が出た様な顔しているのによく言えたものだ、この店員との温度差というものに自分達が少し悲しくなる。

「あのぉ…綾花さんの事で何かあったんですよね。」

「そう。遼太が言った通り、乗り替えたんだよ。おかげでバンドは地獄と化すし、浮気発覚後二人は次の日に殴りあいするし、綾花も綾花で非があるから気まずいし。ほかにも…」

「まぁ、でも、本当に面倒くさい事に巻き込んでごめんね。」

 優也がこのまま語らせたら一生喋りそうな勢いで喋るので、思わず口をはさんでしまった。

「いえ、二人が仲裁に入ってくれたから助かりました。こっちはいつ飛び火するかソワソワしてましたので。仲裁うまいですね。」

「まぁ、俺も有希も兄弟が多いし、喧嘩の仲裁は慣れっこだけどね…。」

 それは褒められてるで良いのだろうか、少し疑問に思ったが、こんな話題を逸らしてくれるなら何でも良いとすら感じる。

「まぁ、確かにうちはチビどもが多くて多くて。おかげさまで奨学金で入学するはめになりましたよ。」

「やば、大変じゃん。」

「そうだよ。ヤバイから一旦忘れて、ドリンクバーとり行きたい。」

「そうだね。」

「そうしましょう。」

 それから好きなバンドや曲の話を三人で話していたが、一度夢中になって話すと遼太と博人の事なんか忘れるもので、語り合える楽しさを久々に感じる事ができた。

 みんなが仲良かった時もこんな感じだったな。また、あの頃の感じに戻れるといいな。

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