人身事件
『この顔にピンときたら110番!』
『
このポスターは仕事の日になると必ず見るというか、否が応でも目に入る。
何回も見てると段々とH28が気になってきたので調べたところ、Sが昭和、Hが平成、Rが令和を表しているらしい。つまり、H28は平成28年、2016年らしい。
時の流れは残酷だな、もう8年前だ。中小企業務めの
満員電車に揺られる覚悟はできた。今日も頑張らねば、指名手配犯の顔を睨んだ後、心の中でつぶやき慣れた手つきで改札を通る。ホームには十数人の社畜達が並んでおり、その顔はゾンビとも月曜日に家族が惨殺された人とも読みとれる顔をしているが、どちらにせよ皆の顔は死んでいる。
ホームに並んで数分、刻々と電車到着までの時間が近くなる。それに反比例する様に人は増え、集めり始める。その中には制服や私服などを着ている高校生、大学生がちらほら存在している。
『まもなく3番線に電車が参ります。危ないですから黄色い線の内側にお下がりください。』
電車が徐々に大きくなってゆく。
『ドンッ。』
突然、女が飛び出し電車と激突する。
「うわぁっ!」
「え、駅員を呼んでくれぇ!」
「ぎゃあぁぁっ!」
「これやばくね。」ピコッ
絶叫する人。駅員を呼ぶ人。その場から逃げる人。撮影を始める罰当たりな人。様々な人々がいるが皆、目の前で人が亡くなった事に恐怖している。しかし、多田は女を突き飛ばした手とその手の人物に恐怖してした。
「マジでやばい。人身事故、人身事故。」
違う。これは人身事故ではない。人身事故に見せかけた殺人であり、多田は犯人を見ていた。いや、見ている。まだ視界に犯人はいる。他の客が波となり、犯人の逃走を遅らせている。
電車は緊急停車、駅員は女だったものにブルーシートを被せたり対応に追われていて、さらに追撃の様に他の客が壁となり、駅員には声を掛けようにも掛けられない。
「もしもし、多田です。利用している駅で人身事故が起きたため、少し遅れます。」
「おぉ、そうか。まぁ、気をつけろよ。」
多田は電話で上司に遅れる旨を伝えると己の正義を信じ、他の客という波を掻き分け、犯人の後を追いかけ始める。
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