第4話 魔族

「これは少々厄介だ」


 別に魔族が強いから厄介という訳では無く、魔物と違って魔族は素材になる部位がないため、倒したところで無意味なのだ。

 それに比べてグリフォンは優秀だ。その翼は矢の羽として、爪は武器の素材、魔石は風魔法に対して親和性がかなり高い。そして肉もかなり美味いため、グリフォンの買取価格は同レベル帯の魔物たちと比べて頭一つ飛び抜けて高い。


「俺はグリフォンだけでいいから、お前は帰ってもいいよ」


「帰るわけないだろ!ここ数年この森で魔物を乱獲している人間はお前だよな?」


「そこまで乱獲しているつもりは無いんだが……大体1週間で数百体程度だしなぁ」


「それを乱獲っていうんだよ!!」


 俺は1週間でまとめて数百匹魔物を狩れば、1ヶ月は魔物を狩ることをしないから、魔物の繁殖力があれば元の生態系に戻っている。だから気にする必要はないと思うんだが。まあそこは人間と魔族の理解の違いか。


「乱獲したところで問題あるのか?俺は特に困らないぞ。ちゃんと1ヶ月経てば元に戻る計算で狩ってるからな」


「人間らしく自己中心的な考え方だ。魔物を狩っている人間はお前1人じゃないんだぞ」


「それは知らないな。俺は環境に配慮しているけど、ほかの奴が配慮していない結果魔物が減っている。結果俺は悪くないQ.E.D.証明完了


「何が証明完了だ!自分の行いを正当化するための言い訳じゃないか!!」


 ふむ、何故か言い分だけを客観的に聞いてみると俺が悪者じゃないか?まあ魔族が悪ってのは人間から見た立場であって、魔族側から見たら人間が悪になるだろうから、決めつけるのはいけないが……俺は自分のことを正義と思っていないし、悪だとも思っていない。ただ俺が考えているのは自分の利益になることだけだ。

 逆に言えば、俺は自分の利益になることなら正義にもなるし、悪にもなる。


「今急いでるから、帰るか、俺と戦うか決めてくれ」


「逃げるわけないだろ」


「言質とった」


 俺はその言葉を聞いた瞬間に魔族との距離を詰めて、光属性の魔力で覆った剣を首目掛けて振るった。武器そのものの切れ味と俺の魔力があれば魔族の首であろうと豆腐のように簡単に切り落とせる。

 胴体と顔を繋ぐ首を切られた魔族は、グリフォンの上でバランスを崩し、地面に叩きつけられた。

 主人を失ったグリフォンは本能のまま空へと飛び立とうとしたが、俺は金になるグリフォンを逃すつもりは無い。まずグリフォンの翼を切り落として機動力を奪い、後は心臓を狙って確実に命を奪った。


「ふぅ、グリフォンのおかげでかなり目標金額まで近付いたな。あとはオーガの群れでも見つけられたら終われるんだが……やっぱり俺は運がいいみたいだ」


 俺の目の前に現れたのは、普通の個体に比べて全身の筋肉が発達しているムスケルオーガに率いられた五匹のオーガの群れだ。ムスケルオーガは普通の個体と違い武器は持っておらず、その肉体で勝負するという特徴があるが、その脅威度はオーガの数倍高い。オーガと違ってムスケルオーガは筋肉の密度が数倍あるとされ、俺の剣でも魔力を流さなければ切る事は出来ない。

 だが、その分ムスケルオーガの魔石や角はかなり高額買取になるため今の俺には適している相手だ。


「とりあえず取り巻きを倒すか」


 取り巻きのオーガとの距離を詰めた。俺の事を見失ったであろうオーガの首を切り落とした。やっと気付いたオーガたちは俺の命を狙って金棒を振り下ろしてきたが、その速度は遅く、見てから避けるのが容易である。そのまま流れるようにオーガの首を落として行った。

 最後に残ったオーガは俺から逃げるようにムスケルオーガの方へと走って行った。オーガにも生物としての恐怖心があるんだろうな。だがムスケルオーガのある特徴によってオーガは殺されてしまった。ムスケルオーガは武人としての自分に誇りを持っており、敵前逃亡は許さない魔物なのだ。


「これで一体一だ」


『グォォォォォ!!!!』


 その叫びは森の中に響き渡ったような声量だった。


◇あとがき◇

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