第5話 裏の人間

 ムスケルオーガは弱点らしい弱点がない。生物として柔らかいはずの瞳ですら固く、鉄の刃を簡単に弾く。俺の剣でさえ魔力を通さなければ弾かれるからな。


「今日初めての本気だ。受け止めてくれよ【光の刃ホーリーブレイド】」


『グォォ!!』


 光属性の魔力を刃に纏わせることで魔物の身体を簡単に引き裂ける武器になる。ただ普通の魔力を纏わせるのに比べると燃費が悪いため、短期決戦にするのが必須だ。

 まあ俺は魔力量が多いから、あまり気にしたことはないがな。


 ムスケルオーガが俺の顔を狙ってパンチを放ってきた。そのパンチは音を置き去りにし、空気をこちらに向けて押し出してきた。

 なるほど考えたな。ムスケルオーガも本能的にこの剣が自分を死に至らしめると分かっているのだろう。空気を攻撃に用いることでこちらの攻撃を受けることなく、俺に攻撃をすることが出来る。


 俺は剣で空気の塊を弾いたが、思っていたより重たかったため、少し仰け反ってしまった。その瞬間、ムスケルオーガは俺との距離を詰めてきて、背後に回った。こんな時でも俺からの攻撃をケアするのを忘れないのか……こいつは今までのムスケルオーガよりも知能が高いのかもな。


「剣という武器は振り下ろすだけでなく横にも薙ぎ払えるんだ」


 俺は腰を捻って剣をムスケルオーガがいる背後に振るった。

 俺の剣はムスケルオーガの脇腹付近を捉え、そのまま反対側の脇腹を突き抜けた。支える足を失ったムスケルオーガは地面へとずり落ちて行った。その時の瞳はどこか寂しいそうであった。


「ふぅ、これだけ素材が集まれば百枚くらい集まるだろう」


 俺は街に戻り、いつも買い取ってもらっている会社に素材を持ち寄ったのだが


「すいませんが、こちらは買い取れません」


「はっ?どうしてだ?これくらいの量なら買い取れる会社だろ。こいつらの素材が溢れているわけでもあるまいし」


「こちらにもこちらの付き合いというものがありまして……」


「地上げ屋か?」


「……」


「沈黙は肯定と取らせてもらうぞ」


 結局それ以上は何も言わず、埒が明かなくなった俺はこの会社を後にした。

 しかしその後もツテのある会社を回ってみたのだが、どこも「付き合いがー」だの「在庫がー」だの吐かしやがって、俺のおかげで会社が大きくなったと言っても過言ではないのに。

 それにしてもどうしようか。俺が持ってる素材たちを売れば百枚になるのは確実だが、売り先がなければ意味が無い。


 もう少し狩って安値で売るか……いや、そんなことしたら冒険者たちに恨まれて、何されるか分かったもんじゃない。裏の組織にでも売れば買い取ってくれるだろうが、そんなことしたら俺が捕まってしまう。


 そもそもここまでしておばちゃんの土地を奪う必要がどこにある?確かにおばちゃんのお店は立地はいいし、人通りも多いからお店をやる分にはいい土地だ。だけど地上げ屋に頼むような会社はいい土地に本店を構えているだろうから、わざわざお金を余分にかけて地上げ屋に頼む必要性が感じられない。

 それなら裏社会の組織か……ならカチコミを行っても俺が捕まることは無いな。


「まずは地上げ屋から情報を聞くか……って地上げ屋の本拠地がどこか知らないな」


「呼ばれて飛び出てジャジャ」


「おい!それ以上はダメだ!!」


 何故だか分からないが、身体が勝手に動いて見知らぬ女の口を塞いでいた。しかもこの女は背が低く童顔なので、傍から見たら俺が幼い女の子を誘拐しようとしているように見える。


「むぐっ――ぷはっ。急に口を塞いでくるなんてどんな性癖をしているんすか!」


「子供が大声で性癖とか言うな!」


 ……釣られて俺も大声で言ってしまった。俺のクズ勇者の称号がクズ犯罪者に変わるのも時間の問題か?


「子供って言いましたね!?私は18歳の大人っすよ!」


「18!?いや、俺からしたら18歳も子供だ!!」


 18歳には見えない。どんなに頑張っても中学二年生だ。しかしこいつは何者なんだ?こいつが声を出すまで近寄られたのに気付けなかった。俺は気配が無いで有名なアサシンラビットでも半径10メートルで気付けるんだぞ!


「……ふぅ、それでお前は何者なんだ?」


「私っすか?私は王国諜報機関NINNJAのサイカっす!」


「……なあ、諜報機関の人間が素性をバラしてもいいのか?」


「あっ」


 こいつはだいぶポンコツぽいな。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る