第2話 おばちゃん
「おばちゃん、今日はまとめ買いするからまけてくれ」
「そうだねぇ……あんたが勇者の仕事をやるんだったらまけてやってもいいよ」
「それは難しい相談だな」
この商店は俺が勇者の称号を貰った当初からの行きつけであり、ここの店主であるおばちゃんとは顔見知りの仲だ。
彼女は俺が勇者であることを知っているし、クズってあることも知っているため、こうやって何かと働かせようとしてくるお節介おばちゃんだ。ただ彼女の人柄や商品と質は一級品なので、通い続けている。
「あんたが動いてくれたら、魔族の支配領域を解放出来るだろうに」
魔族を倒して土地を人類のものに出来たところで、貴族共が権力を使って安く買い叩いて自分の利益にするだけだ。だから俺は魔族と積極的に戦うつもりは無い。だが他の勇者共は正義のためだとか抜かして魔族を討伐して土地を解放し、貴族共の利権を増やしている。あいつらは能無しとしか思えない。何が正義のためだ。貴族の利権が増えれば貴族の権力が増して、市民の生活が苦しくなるだけなのが分からないのか……まああいつらは自分の正義に酔いしれているだけだろうがな。
「支配領域を解放したところで、貴族共が利権を狙って土地を食い荒らして終わるだけだよ」
「それもそうだねぇ。話が楽しかったからまけてあげるよ」
こういう彼女の人柄が、大きな会社に負けずにやっていけてる理由なんだろうな。
「ご主人様、あれを」
「なんだ?……地上げ屋か」
おばちゃんの店を出た後に入って行ったと思われる顔に大きな傷がある山賊みたいな身なりをした男たちは、声を荒らげておばちゃんを恫喝しているように見えた。
顔見知りが脅されているのを見逃せるほどクズではない……はずだから声をかけた。
「おい恐喝は良くないぞ」
「この女は借金があるんだよ。だからここの土地を担保として貰おうとしているだけなんだよ」
「……いくらの借金があるんだ?」
「金貨100枚だ」
「……返済期限はいつまでだ?」
「明日の朝だ」
一日か……無理をすれば稼げる金だな。
「明日の朝、もう一度来い」
「……分かった」
きちんとした会社が雇っているから、法を犯すつもりは無いのだろうな。方を犯すような真似をしてくれた方が楽だったのだが、まあ仕方ないか。
「おい何をしたら金貨100枚の借金が出来るんだ」
「……」
「何も言いたくないなら別にいいけどよ」
「……あんたには黒字って言っていたけど、やっぱり客があんた1人だけだと赤字になっちまうんだよ。でもさあ、あんたやあんたの奴隷がよく買いに来てくれるのが嬉しくてね、お金を借りちまったんだよ。でも自分を責めるんじゃないよ。あたしは自分の意思で借金をしたんだからね」
「別におばちゃんのためじゃねえよ。俺は行きつけの店が無くなるのが嫌なだけだ」
俺はなにか言いたそうなおばちゃんを無視して商店を後にした。
武器がないから一度家に帰るか。それで朝まで魔物を狩って市場に流せば100枚くらい稼げるか……いや、足りなかったら貯金を回すか。
「ルーダは家で留守番をしていてくれ」
「分かりました。お気を付けて」
「俺を誰だと思っているんだ?俺は勇者だぞ」
こういう風にカッコつけるんだったら、勇者って称号はうってつけだな。
今の俺は腰に剣を差し、軽鎧に身を包んだ勇者らしい格好になっている。まあこの街にいる奴らは俺がクズだってことを知っているから、特に反応を示してはくれないがな。
「……オークか。オークなら千体くらい倒さないと100枚は貯まらないだろうから、オーガだったりグリフォンとかを見つけたいな」
俺は剣を振り下ろしてオークの首を切り落とした。オーク程度の魔物であれば魔法を使う必要も無い。
「面倒くさいが森の奥に行くか」
俺は木の枝を飛び移りながら森を進んだ。
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