勇者は正義感が強いという固定観念はやめてくれ
Umi
第1話 勇者でもクズはいる
急な事だが俺は勇者である。
確かに俺はギャンブルで金を溶かし、女奴隷を買うために借金をし、それを返すために魔物を討伐するというサイクルで生活しているクズだが、勇者なのだ。
そもそもこの国で勇者の称号を貰えるのは魔物や魔族に対しての特攻を持つ光属性の上級魔法を使えることだけが条件であり、思いのほか勇者は存在するのだ。
しかし大多数の勇者や市民たちが自分の正義感を振りかざして文句を言ってきやがる。俺は勇者になりたい訳でも英雄になりたい訳でもない。人の三大欲求を満たすために魔物を討伐しているだけで、本音を言えば魔物を討伐するのは、魔法一発で倒れてくれると言え面倒くさい。
だから俺は皆に言いたい。
『勇者は正義感が強いという固定観念はやめてくれ』と。
俺の一日は奴隷に起こされて始まる。
奴隷と言ってもこの国では合法であり、俺が買っているのは借金奴隷なので借金の分働けば開放される。それに人権に考慮されているため必要最低限度の生活をさせる義務が主人には発生する。
そのため俺の奴隷は、一人を除いて買って解放されてを繰り返している。だから俺は魔物を討伐してお金を稼ぐという行為を高頻度で行わなければならない。
目を覚ました俺は奴隷が作った朝ごはんを食べて、珈琲を嗜む。本物のクズだったら二度寝をするのかもしれないが、俺は二度寝が嫌いだから一度起きたら次に寝るのは夜だ。
「ご主人様、洗剤がなくなったので買ってきてもよろしいでしょうか?」
この奴隷は先月買った奴隷のルーダだ。この子は親の事業が失敗したことで、親の事業を立て直すためのお金を作るために借金奴隷になってしまった可哀想な奴だ。ただルーダ自身の商才はかなりのものなので、奴隷から解放されたら自分の商会を作るらしい。
俺はその商会に出資するつもりなので、事業で成功したら不労所得で生きていけるはずだ。
「ああ、お金はいつもの所にある」
「すいません足りなさそうです」
「……そうか、もう月末か。なら俺もついて行こう」
銀行にお金は残っているはずなので、俺がお金を下ろしてから買い物に行くことになった。今月は奴隷を買っていないのでお金に余裕があったはずだ。
「カエデも行くか?」
この子は俺が所有する奴隷の中で唯一の犯罪奴隷であるカエデだ。彼女自身が犯罪をした訳ではなく、彼女の父が国家反逆罪で処刑されたことで一族全員が犯罪奴隷として奴隷商に売られてしまった。俺はこの子の兄と飲み仲間だったのだが、奴隷を買いに行った際にそいつに妹を頼まれて、その時は酔っていたのもあり受けてしまったのだ。
「ううん」
カエデは犯罪奴隷だったこともあり、奴隷商にいた頃は周りが犯罪者だらけで心を閉じてしまったのだ。ただ一年ほど一緒に暮らしてきたことで少しずつ心を開いてくれた。
ちなみにクズだからって1度約束したことを破るほど落ちぶれてはいない。
「じゃあ俺たちだけで行くか」
「分かりました」
俺たちはカエデを残して家を後にした。
ちなみに俺の家は周りの家に比べ、かなり大きめで庭にはプールがある。俺自身は泳げないので飾りでしかないがな。
「買うのは洗剤だけでいいのか?」
「えーっと……卵のストックがあと一つで無くなります。他にも食料品で少ないのがいくつか」
「それもまとめて買っておこう」
多くの会社が店を出している商業区へとやってきた俺たちはまず銀行に行った。銀行は安全面からギルドに併設されており、銀行の利益の一部をギルドが受け取っている。そのためギルドは魔物の素材を相場より高めに買い取ってくれる。
ただギルドで売るには登録する必要があるため、俺は登録していない。もしギルドに登録すると強制依頼だったり、ギルドに頭が上がらなくなったりするため、俺は民間の会社に相場の値段で魔物の素材を売っている。
「よお、勇者くんそろそろギルドに登録しようぜ。ギルドに登録していない勇者なんてお前くらいなんだぜ」
「断る」
絡んできたこいつはガルムと言って、ここのギルド長であり、魔族の中でも四天王と呼ばれる魔族軍中枢の一角を落としたことのある英雄だ。ちなみに光属性の魔法は中級までしか使えないので勇者ではない。
「つれねえな。同じ勇者養育所出身じゃないか」
「……行くぞルーダ」
「はいご主人様」
空気を読んで黙っていたルーダを連れて銀行を後にした。
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