第8話

 電話を切り、窓辺に立つ。

 外はすっかり暗くなっていた。


 由美が妊娠のことを一番に相談したのは信子だった。

 肝っ玉のすわった信子なら、何か最適な解を導き出してくれるかもしれないと思ったのだ。


 由美は子供を産みたいと思っていた。


 しかし信子の反応は由美の想像していたようなものではなかった。

 信子は半狂乱になり、信一郎のところへ殴りこんだ。


 そして嫌がる由美を病院に引き摺るように連れて行き、中絶をしたのだ。


 由美は抗いながらも、仕方ないと状況を受け入れた。

 高校二年の冬のことだ。


 十年ほど前のことなのに、もっともっと昔のような気がする。

 あのとき、由美は自分が一気に十は年をとったように感じた。


 信子は明との結婚をとても喜んでくれた。

 先生とのことを早く無かったことにしたかったのだろう。無かったこと、なんかにはならないのだが。


 明を連れて実家に帰ったとき、信子は二人きりのときに由美に聞いた。


 先生のこと、明君に話したん?と。

 由美はううんと短く答えた。


「なら言わんほうがええ。もう昔のことじゃし」


 信子は由美の目を見ずに、しかしはっきりと言った。

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