第2話

 由美は住宅街の中の小さな公園に入っていった。

 ブランコだけがある小さな、寂しい公園だ。


「はちー、はっちゃん」

 由美は公園に入りながら、植栽が集中している場所に向かって声をかけた。


 がさがさと葉がすれる音がして、一匹の猫が飛び出してくる。

 きじ白の猫は、ぴんと長いしっぽをたてて由美に寄って来る。


 由美は腰を折りながら、猫に近づいていった。

 はちは野良にしては体格が良く、毛並みも良い。


 近所で定期的にえさをもらっているはずだ。 

 はちが目を細め、由美を見上げながら、ゆっくりと歩いてくる。


 他の人間にもえさをもらっておきながら、あなただけよという顔をして寄ってくるのだ。


 信用のならない男だ。はちは大柄なオス猫だった。


「おはよー、はっちゃん。今日も可愛いねー」


 きじ白で、額に八の字の模様があるから「はち」。

 由美のつけた名前だ。


 はちは自分の名前を認識しているのかわからないが、由美が「はち」とか「はっちゃん」というと振向いたり、寄ってきたりするのだ。


 由美ははちの頭をなでてから、ポケットから猫のおやつを取り出す。

 百円ショップで買ってきたものだ。


 鳥のささみを加工したものが真空パックされている。

 由美はささみを取り出し、はちの前に掲げた。


 はちは背伸びをしてささみに噛み付き、由美の手からそれをひっぱり取った。


「待って、はっちゃん。ゆっくりで大丈夫だから」


 はちはぐるぐるとうなり声を出しながら、ささみを咀嚼していく。

 可愛い顔をしていても獣だ。


 由美は食事をしているはちの背中に手を置き、その温かさを確認する。


 はちは一瞬、自分の背に置かれた由美の手元を確認したが、すぐにまた食事に集中しはじめた。


「はっちゃんは今日もかわいーね」


 由美は目を細めて荒々しく食事を続けるはちを眺めた。

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