その52「深月姉のゲームをプレイした」


 深月姉がシナリオを書き、夏夜姉がその他を手がけた姉妹渾身のADVゲーム。




 深月姉がiPhoneのアイコンを押すと、一時暗転し、やがてメニュー画面らしき画像が現れた。




 メニュー画面は、女の子3人とタイトルのロゴ。この3人が、このゲームのメインヒロインのようだった。




 俺は、スタートと書かれたボタンをタッチする。すると、一時画面が暗転し、次に主人公の部屋らしき背景が浮かび上がった。




 「おお、本物のゲームっぽいな」




 「当然でしょう?私が作ったんだから」




 夏夜姉が胸を張る。そして、下の方に、テキストウィンドウが浮かび上がった。




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【???】




ジリリリリリ!!


目覚まし時計が鳴っている。俺は手探りで時計を止めて、起き上がる。


まったく、騒々しいったりゃありゃしない朝だぜ。




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 「ベタな始まり方だなぁ」




 「仕方ないでしょー。私も初めてだったんだから」




 深月姉は頬をふくらませる。俺は画面をタッチし、文面を進めた。






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【祐一】




外はすごく明るい。とっても晴天だ。こんな日は、軽く“転がしドッヂ”でもしたくなるぜ!




おっと、自己紹介が遅れちまった。


俺は神宮寺祐一。スーパーとコンビニのバイトをする、しがないフリーターだ。




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 「よし、ちょっと待とうか」




 俺は夏夜姉からiPhoneを奪い、ゲームを一時中断させた。




 「どうしたの、夕一?」




 「転がしドッヂのくだりは目をつむろう。どうして主人公の名前が俺と同じなんだよ」




 「漢字が違うでしょ?それに、苗字も全然違うし」




 「職業も酷似してるし、明らかにモデル俺だろ。それになんだよ神宮寺って」




 「えっ、祐一の苗字だけど」




 「なんでこんな名家か公家っぽい苗字なんだよ。あからさまに名家っぽい苗字でフリーターだったら、ショックの度合いが増すだろ。高級寿司屋でかっぱ巻き頼むみたいな感じになるだろ」




 「えっ、意味がよくわかんないんだけど……」




 深月姉だけでなく、夏夜姉までぽかんとした表情で俺を見てくる。俺が間違っているのだろうか。




 判断しづらかったため、俺は画面をタッチし、ゲームを再開させた。






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【祐一】




まったく、朝ってのは辛いぜ。誰だよ朝に出勤させようと考えた奴。


俺が国王だったら、宗教戦争勃発だぜ!!(キリッ)




そうして、俺はカレンダーを確認する。そのときに気づいた。


今日は日曜日だった!!(がびーーーーーーん)




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 「なんだよこの文章。訳わかんないんだけど」




 「えっ、朝起きるのが辛いっていうあるあるネタで、プレイヤーの心を和ませようとしてるんだけど」




 「だとしても、宗教戦争のくだりいらないだろ。それになんだよこの丸カッコの文章。いちいち腹立つんだけど」




 「とにかく、続きを見てみてよ」




 深月姉に急かされ、俺はまた画面に目を戻す。そして、画面をクリックした。






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【祐一】




まぁ、でも日曜なら日曜でいいんだ。俺はそういったところは何事もなかったように許すタイプだからな!!(寛容)




何故なら俺には、休日をひっそり楽しく過ごす術を見につけているからな!!




俺は、すぐさま着替えて、外出の準備をする。(いそいそ)






さぁ、今日も、趣味の工事現場見学でかけるぞ!




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 「ちょっと待てっ!!」




 俺は再びiPhoneを奪った。




 「もう、なんなの夕一!いちいち止めたりなんかして!」




 「この際もうカッコの中についてはどうでもいい!なんだよ趣味が工事現場見学って!!嗜好が特殊すぎるだろうがっ!!」




 「いいじゃん、その方が話進みやすいんだから」




 「その後メインヒロインがダンプカーに乗って現れたら、さすがにご都合主義だと皆が気づくだろうが!!」




 吠える俺の肩を、誰かが叩いてくる。夏夜姉だった。




 「夕一、さっきから聞いていれば、少し身勝手に批判しすぎよ。価値観は人それぞれで、全部が夕一の思うようなものではないの。一概に、自分の好き嫌いで批判をしてもらっては、私も少し困るわ」




 「えっ、俺が悪いの……?」




 おかしいのは明らかに深月姉のテキストなはずだが、真面目な夏夜姉に諭されると、どうも自分が悪いように思えてくる。俺は頭をひねりながらも、少しして頷いた。




 「……悪かったよ、夏夜姉、それに深月姉。確かに俺は、自分勝手だったかもしれない」




 そう言うと深月姉は、優しげな笑みを見せて、俺の頭を撫でてきた。




 「いいんだよ、夕一。ねーちゃんもちょっと変わったところがあるから、夕一の考えと違うところが出ても仕方ないと思うの。でも、それも含めて認めてもらえたらなって思ってるから」




 「深月姉……」




 夏夜姉も、優しく俺の頬に触れた。




 「私も、少し強く言いすぎたわ。色んな感想があってしかるべきよね。私も、作者の立場で強く言いすぎたのかもしれないわ」




 「そんな、夏夜姉……」




 俺たちは互いに微笑みあう。先ほどまであったわだかまりは、この瞬間にすぐほどかれた。俺たちは姉弟の絆を抱き、温かな気持ちを感じながら、iPhoneの画面をタッチした。






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【祐一】




よーし、今日もたくさん工事現場を見るぞ!!


そんな期待を胸に、俺は家を飛び出ていった。






そうして二時間後、なんだかんだあって俺はダンプカーに敷かれた。






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 「うおいいいいいいぃぃっ!!!!」




 俺は思わずその場に立ち上がっていた。あまりの音量に、その場にいた者全員が条件反射的に身体をビクッと震わせた。




 「ど、どうしたの、夕一………?」




 「なんだかんだってなんだよ!!一体なにが起こったんだよ!一般人がダンプカーに敷かれるシチュエーションってなんだよ!!」




 「えっと、それは、思いつかなかったから………」




 「ご都合主義にしても潔すぎるだろっっ!!」




 結局、ゲームプレイはその時点で中断となり、俺たちは気まずい空気のままテレビを見始めたのだった。




 その日の祝杯は、高いシャンパンを開けながらも、どこか微妙な空気が漂っていたのだった。

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