その11「ミニチュアハウスを作ろうとした・上」
休日。汐里は相変わらず自由帳にお絵かきをしていたが、あるときやめて、深月姉のコールオブデューティのプレイ画面を眺めていた。だが、深月姉がどれだけキル数を重ねようと、汐里が理解できるはずもなく、すぐにそれもやめて、ごろごろと寝転がった。
「どうした汐里?深月姉の真似なんかして」
「夕一、地味に失礼だね」
深月姉はむっとした顔で俺を見たが、ゲームで深月姉が敵の銃弾の餌食になってしまい、慌てて画面に目を戻していた。
「汐里、もしかして暇なのか?」
コクリ、と彼女は頷く。
「しお、とってもひま」
「夕一、考えてみたら、汐里ちゃんのおもちゃって全然なくない?」
確かにそうだった。汐里の娯楽と言えば、自由帳に絵を描くか、借りてきたアニメのDVDを観るくらいしかない。
「なにかゲームソフトでも買ってあげたほうがいいんじゃない?」
「深月姉、子どもを使ってちゃっかり欲しいもの買わせる気だろ」
「わ、私もそこまで心よごれてないよ!」
ふるふる、と汐里は首を振る。
「しお、お人形さんが欲しい」
「お人形?ぽぽちゃん人形みたいな赤ちゃんのやつか?」
「ちがう。お人形さんのお家に入るくらいの小さいの。これくらいの」
汐里は両手で人形の大きさを表現する。おおよそ、5、6cmくらいだった。
「おうちもあって、どうぶつとか、いろんなのが住むの」
「ミニチュアの動物園が欲しいのか?」
「ちがう」
汐里の反応は冷ややかだった。
「ねぇ夕一、もしかして、シルバニアファミリーみたいなのじゃない?」
俺はネットで検索して、汐里にシルバニアファミリーの画像を見せる。汐里は手をたたいて、これだと言った。
調べてみると、すごいものだった。家具やら食器やら、鍋や玩具まで様々あった。そのどれもが、かなり精巧にできている。
「おもちゃの人形のおもちゃを買うって、どうなんだろうか」
「うわ、高っ。ミニチュアハウスって結構するんだね」
ネットに表示された値段を見る。俺たちの経済状況で買えるようなものではなかった。
汐里は、じっと上目づかいでこちらを見る。とても、買ってやれないとは言えそうになかった。
「そうだ。人形だけ買って、家は作るってのはどうだ?」
「つくる……?」
汐里はいぶかしげに首をかしげる。
「でも、作るって言ったって、作り方もわからなければ材料もないよ?」
「まかせてくれ」
俺は電話をかける。相手は、夏夜姉だった。
『あ、夕一。どうしたの?』
俺は事情を説明する。汐里は途中から俺の携帯電話に耳を寄せ、話を聞いていた。夏夜姉は冷静に、わかったと言った。
『一時間待ってて。ネットを探せば住宅の設計図が落ちてるはずだから、それを参考にしてミニチュアの設計図を作るわ。必要な材料も、そこに書いておくから』
「おお、さすが夏夜姉」
『どうってことないわよ』
そうして、電話が切られた。やりとりを聞いていた汐里の表情はぱぁっと明るくなったが、反対に深月姉は暗かった。
「まさか……夏夜ちゃんの手を借りることになるとは……」
「困ったときはお互い様だよ」
「でも、夏夜ちゃんが困ったところなんて、見たことある?」
「………たしかに」
思い返してみれば、夏夜姉には手やらなんやら色々と借りっぱなしだった。
「……俺、夏夜姉が望むなら2、3日くらい泊まりに行った方がいいのかもしれないな」
「そればっかりは、私も止めることはできないよ……」
このとき、俺たちは夏夜姉の偉大さを改めて感じたのだった。
そして、きれいに一時間を10分残して、夏夜姉から設計図がデータで送られてきた。しかも、読みやすいようにプラモデルの説明書のように、手順を分けて丁寧に説明されていた。
「お、ほとんど木材でなんとかなるようにしてくれてるな」
ニス塗りや塗装は必要だが、窓などを除いては、おおかた木材で完成するように組んでくれている。
「木材か。それじゃ、一番近いのは葵山かな」
「なんで原木から切り出す前提なんだよ」
「冗談だってば。ホームセンターだよね」
ホームセンターは駅前のショッピングモールの中に入っている。歩いていけば、それほど遠くはない。
汐里はくいくいと俺の袖を引っ張る。
「人形買うのも、わすれないで」
「わかってるよ」
汐里はひょいと立ち上がり、玄関の前に立つ。既に臨戦態勢だった。
「それじゃ、買い出しにいくか」
そうして、俺たちは外へと繰り出したのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます