第25話 ガンツ
右腕をなくした鍛冶屋はやっていけない。
「チックショー!あのボンボンめ」
俺は最高の勲章をもらった鍛治士だぞ?何故あんな小僧の剣なんか打てる?腕もないのに欲張り、あまつさえ俺の腕を使い物にならなくしやがった。
「ガンツ!また飲んだくれてんのかい?いつになったら仕事を始めるんだい?」
「この右腕を見てわからないのか!もうハンマーすら持てないんだぞ」
ボンボンに逆らった罪で右手を串刺しにされ思うように力が入らなくなった。
「だから神官に頼んで」
「そんな金どこにあるんだ?」
「後払いで」
「それはもう言った、そしたらあいつら笑いながら1000万金貨用意しろだと…腐ってやがる!」
「ガンツのそんな姿見たくない」
「ワシだって好きでこんなことしてるわけじゃない!やることがないんだよ!」
「ガンツ!さよなら」
「あぁ!せいせいするぜ!」
女は出て行った。
「あぁ、女にも捨てられて俺には何も残ってない」
酒瓶を煽るように飲み干すと次の酒瓶を開ける。
「鍛治士はやめだ!こんな仕事の…俺にはこれしかなかったのに!」
悔し涙が溢れる。
誰も彼も離れて行った。自分が鍛治士じゃなくなるとその名声に縋り付いて来た女どもも、その剣や槍に魅了された冒険者どもも、全員が俺から離れて行った。
この右手さえ治ればどんなことだってやるのに!神官に頼むしかないのか?奴隷のように働かされる一生なんてごめんだな。
「ふざけんな!俺は奴隷になんてならねぇ!」
「それで何かわかった?」
「えぇ。ガンツという男がこの前貴族に刃向かって右腕を八つ裂きにされたって話よ」
「あぁ。そうか」
間に合わなかったか、
「それで?ガンツの居場所は分かっているのか?」
「それはもちろん」
「ならガンツを仲間に入れようか」
「役に立たない鍛治士を?」
「最高の名誉を貰った鍛治士だよ」
「そりゃ無理だろ?手が使い物にならない鍛治士だろ?」
テリーが無理だというがそれは回復魔法が使えないからだな?
「俺なら治してやれる」
「あぁ。また使うのね?今度こそ自分に返ってくるかもしれないわよ?」
「それはレベルを上げた今ならできると信じてる」
回復魔法は魔力を沢山使うのは分かってるがレベルも上がった俺ならできるって信じてもらえないか。
「私は反対ね、リスクが大きすぎる」
イザナは俺の体を心配してくれている。
「私も、もう沢山の人を助けたじゃない?」
まだ助けられるなら助けたい。
「俺は…リュウに任せる!リュウが助けるってんなら俺も助けたい」
「ありがとうテリー、イザナ、メイア、俺は助けたい」
「ふぅ。勝手にしなさい!でもこの前みたいなことはごめんよ?あれで死んだかもしれないんだから!」
「わかってる、今度は慎重にやるさ」
“ゴンゴン”
「…だれだ」
「入るぞ、って酒臭いな!」
「ふん、小童か!剣はもうないぞ?」
「あるのは使えない右手だけってか?」
「この野郎!左手はまだ使えるんだぜ!」
“ボグッ!”
「げ、ゲホッ!ゲホッ」
俺は避けて腹に一発拳を入れる。
「冒険者だ、お前の腕を治しに来た」
「な。ぐふっ!冒険者だと?そんなもんで治るわけないだろ?」
「おとなしく治療を受けるならやってやる」
「あ?嘘をつく奴は大嫌いなんだが?」
「俺もだよ」
「分かった、だが一週間だ!一週間で治せるのか?」
「できるだけやってみるよ」
「…くそっ!分かった!お前にやらせてやる!代金は?」
「仲間になれよ」
「は?」
「俺たちは旅をしてるんだ、だから仲間になれよ」
「…できたらな」
俺はベッドにガンツを寝かせると乱雑に巻かれた包帯を取る。酷い傷だ。細かい神経なんかも壊されているな。
「ふん、酷いもんだろ」
「あぁ、こりゃ酷い」
「治せるのか?」
「できるだけやってみるよ」
「ふんっ!」
「ヒール」
じゅくじゅくと言う音がして治ろうとしている。
「ヒール」
スズメの時はフルケアを使ったがこれは少しずつ治療して行ったほうがいいな。
「クックク!」
「どうした?痛むか?」
「痛むのは俺がお前を信用しなかったからだ、頼む治してくれ」
「任せろ!ちゃんと治してやる」
一人自分の治りかけの手を見ながらあの小童の言葉を思い出す。
「俺の仲間に」
「任せろ!治ったら仲間にでも何でもなってやる」ガンツの目に希望の光が見えていた。
2日目、3日目と徐々に回復して行くガンツの右手は外傷はすっかりなくなっていた。
「まだまだ治療をするから無理はするなよ」
「分かってるさ、握れる事がまだできないからな」
4日目、5日目と治療を施して6日目にようやく握ることができるようになって来た。
「まだ無理はするなよ」
「いや、少しリハビリをしたいんだが」
「軽くならいいだろう」
「よし来た」
ガンツは二度と握れないと思っていたハンマーを握る。
涙が出てくる。
あれだけ無能呼ばわりされた日はない!
「ガンツ!まだ振っちゃダメだ!」
「分かっとる!この感触を確かめているだけだ」
俺はそっと扉を閉じて宿に戻った。
7日目になると自分で箸を持ち飯を食ってる姿を見た。やはり治療は成功して来ている。
9日目には少しだが金槌の音がした!
「まだだって言ってるだろ!」
「軽くならいいだろ!腕が喜んでいるんだ」
11日目、
「ようやく本気のリハビリだな」
「あぁ、ここからは俺が本気を出す番だ」
腕立てなんかをし始めていい頃合いだろう。
「二週間も、かかっちまったな」
「いや、最初は本当に悪かった。俺はガンツ!お前の仲間にしてくれ!」
ガンツは涙脆いな。
「こちらこそよろしく頼む」
握手をするとゴツゴツとした手に変わっていた。
「まーだ、本調子じゃないから本気の鍛治は出来ないが早くできるように頑張るからな!」
「それじゃあ街を出よう。ここの貴族の元ではやりたくないだろ?」
「おぉ!…でも、ここは俺の道具が揃ってるからな」
「ならいいところ紹介するさ」
俺たちは荷物を持って街の外に出る。
「転送」と言うと光の輪が俺たちを包むと次の瞬間ファーストシップの中にいた。
「こっちだ」
「え。えれえもん持ってるじゃねえか?」
「ビックリすんなよ?」
ファーストシップの中にも鍛冶場がある。そこに超硬金床なんかも設置した。
「揃ってるじゃねえか!なんでも!はまだいいすぎだがここが俺の居場所になった!いつでも好きな時に仕事をしてやる!」
「あははは、期待してるよガンツ!」
「おう。任せろ旦那」
「旦那じゃないリュウだ」
「リュウか!そういえば名前も聞いてなかったな、本当にすまない!」
「いいさ!ガンツ!」
それから仲間に紹介して次の街に行くことにした。
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