第9話

 くろねから装備を借り、早速8層へ向かって進むことにした。

 彼女曰く、彼女は既に10層まで到達しているらしく、本当なら付いていきたいところだったのだが、生憎用事があるそうで付いては来られないらしい。

 代わりにということで、瑚岳の森までへの行き方や注意点などを教えて貰った。


 昨晩しっかりと休んだため、体の疲労は回復している。

 くろねから借りた装備はなかなかに性能が良い。明らかに手に馴染むのだ。どうやらこれは彼女が趣味で作っていた装備らしい。彼女は職業が鍛冶師でありながら普段は別のことをゲーム内で行っているらしい。

 そのため、あまり店自体も開いていないのだとか。ただ、時間を見つけては店を開き、暇なときは趣味で武具を制作しているのだとか。そういったのが所属しているギルドの倉庫に山積みになっているそう。

 今回は先日作ってまだ持って行っていっていなかったものを貸してくれた。


 ちなみに、連絡が取れた方が便利だからということで、彼女とフレンド登録を済ませた。私のフレンド第1号だ。素材の採集が終わったら連絡して欲しいと言うことだ。

 フレンドになると、連絡を送り合えるほか、ログイン状況や名前、職業にレベル、所属ギルドなどを確認できる。

 ちょっくらくろねのものを見てみる。

 名前の横に付いている白い丸は、彼女がログイン状態であることを示している。この丸が黒くなればログアウト状態であるということを示している。


『○ 三嶋くろね【総合装備職人(鍛冶)】Lv.48 /〔三嶋商業会〕』


「総合装備職人?! な、なにこれ……」


 あまり聞くことのない本当に珍しい職業だ。

 このゲームには生産職のみ上位職が存在している。それもいくつか存在していて、その人のプレイスタイルによってその変化が変わっていく。

 彼女の場合は総合装備職人。これは、装備や武器を作る生産職の上位職の1つだ。簡単に言えば、元々選択していた職業が生産出来るもの以外にも生産ができるようになるという職業だ。

 つまりは、通常鍛冶師は金属系統のみで、布などで作る装備は作れないが、上位職になれば布などの装備も作れるということだ。

 装備全般が作れるようになる職業。これが総合装備職人だ。


 ちなみに、くろねは元々鍛冶師だったらしい。


 ていうかレベル48っていうのも明らかにおかしい数値だし、どういうことなのだろうか……。本当に凄腕の職人だったのだろう。

 生産職は戦闘職に比べてLvの上がり方などが異なるため、純粋に私のレベルとの比較は不可能だが、それでも十分に凄いのだ。


 そんな彼女から受けた依頼。こなしてみせようではないか。









 まずはさっくりと6層、7層を攻略していく。


 6層のボス部屋への入り口は、実はこの町の中にあるのだ。この町の中央に広がる大きな湖、この中にボス部屋への入り口がある。

 この中にといっても、潜っていくというわけではなく、湖の中央にぽつりと浮かんでいる島に行くだけだ。

 島へ行く方法はいくつかあって、1つは泳ぎ系統のスキルを獲得して泳いでいく、2つ目はクエストをクリアして船を借りるかのせて貰う。

 クエストの例としては、町の漁師に話しかけたら魚の数が減ってしまった的なことをいわれて、それを解決するとか、そういった感じ。いろいろ種類があるし、日によって変わるとか、運だとかいろいろあるらしい。


 3つ目は、その他だ。


 私は今回その他で行かせて頂く。


 偶然だが、攻略中に水蜘蛛というスキルを獲得しまして、これが水上歩行のスキルなのですな。そう、楽勝なのである。









 ぺちぺちと音を立てながら水上を歩き、湖の中央にある小島にやってきた。

 その小島には小さな神殿のようなものが建っていて、そこから地下へ向けた階段がのびている。

 島の大きさは本当に広くない。100人乗ったら大丈夫ではないレベルだ。そのため、本当に神殿を置くために、ボス部屋へ続く階段を作るためだけに作ったもののようだ。


 ちなみに、この湖は相当広いため、スキル無しで泳いでくるというのは不可能だと思う。

 おそらくそれができないようにゲームシステムでも調整が行われているはずだ。私は運が良かった。


「じゃあ、サクッと攻略しますか」









 くろねから聞いていたとおり、6層のボスはよく分からない魚の擬人化であった。

 鯛のような魚が頭を上にして立っていて、足と手が生えている。非常に気持ちが悪い。

 あんなに町は美しいのに、このボスモンスターで台無しだ。


 弱点はえらということで、えらの中に手を突っ込んで引きちぎれば倒せるそうなのだが……。


「いや、グロいでしょ」


 それをやった後の図があまりにもグロすぎて、私にそれはムリであった。どうやらくろねはなかなかにメンタルが強いらしい。




 地面には30センチほどの水が敷かれていて、溺れるというわけでは決してないのだが、足を取られて動きにくい。そのため、私は水蜘蛛のスキルを常時発動することになった。


 鯛型のモンスター、名前はオヨギタイというモンスターらしい。


「知らんわッ! 勝手に泳いどけ!!」


 どうやらひれの部分が手と足になっていて、上手く泳げないらしい。

 足を大きくバタバタさせながらこちらに向かってくる。その様子が非常に気持ち悪く、思わず1歩後退あとずさってしまった。




 この気持ち悪さに気を奪われていては話が進まないということで、借りたいつもより多少長めの忍者刀を握り、一気にそいつに向かって駆け寄っていく。

 途中、クナイを一発目ん玉めがけて投げてみたが、狙いがずれて躱されてしまった。


 横向きであれば太い図体も、正面から見れば非常に細い。市場であれば目利きから外れるような個体であり、極めて平のだ。


 こいつの実力が分からない以上、30分のクールタイムがある影移動はここぞというタイミングで使いたい。ここぞというミングでね。




 女忍者自慢の跳躍力を利用し、一気に詰めていく。そこで、若干横に逸らしながら相手の側面を突けるように意識する。

 タイは水をバシャバシャとまき散らしながら動き、手を水につけたかと思うと、その手の周辺には魔方陣が浮かび上がってきた。

 そして、私が歩行していた部分の水が一気に盛り上がると、思いっきり勢を崩されてしまう。


 このままではただ地面に打ち付けられてしまうだけ。それはできるだけ避けので、ここでさっさと影移動を使ってしまうことにした。

 せっかく借りたかっこいい忍者刀を、まさか魚を捌くのに使うことになるとは思っていなかったが、それも仕方がない。

 私は魚系お料理チャンネルをよく見ていたのだ。きまぐれに料理をするチャンネルをよく見ていた!

 いつもそれを見ては勝手に捌ける気になっていた。捌いたこともないのに。ではその腕、見せてやろうではないか。




 水蜘蛛のスキルを解除し、影移動を発動する。相手の行動が読めないので、影の中でとどまったりはせず、さっさと地上に上がる。

 上がってきた場所は鯛の真下で、私が上がると同時に鯛は空中に打ち上げられた。


「秘技、三枚おろしッ!!」


 私は動画で培った知識で、おなかを裂き、頭を下ろして三枚おろしにした。




 ボスを倒したことにより解除された実績が、私の画面の右上に表示された。


『アチーブメント:捌いていくっ! を解除しました』


「やかましいッ!」

   

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